One Life, One Death.

悲しみは過ぎるものではなく、満ちるもの。
悲しむほどにそれに執着していた。
悲しむほどにそれを愛した。
悲しみがいつかやむとき、あなたは何を思う。
安堵か、それとも失望。
いずれにしてもそれ自体が悲しいこと。
悲しまないということは喜びもないということ。
それでもまだ願う。
悲しみなんていらない。
その願いはけして容易に出来ることではなくて
心を閉ざし、希望を投げ捨て機械のように笑うことも無く
ただ生きている。死んだまま。
死はけして肉体だけの問題ではなくて
むしろ、魂の死こそ人間の死の基準と考えていい。
何も感じない、何も望まない、なんの快楽もない。
なんの辛さもない。
それは絶望。
キルケゴールは死に至る病は絶望だと言った。
死は簡単にあなたを招くだろう。
あなたが望めば死はすぐやってきてあなたの首を狩るだろう。
死にゆく修羅は闇。
修羅でさえ死を恐れている。
むしろ死を恐れないものこそ死を畏怖している。
世界は常に等しくあって
空を見上げれば鳥が歌い、大地を望めば花々が咲き乱れ
夜空には星がきらめいている。
あなたは数々の歌を聴き、花々を愛で、星々を数えている。
絶望の中でさえまだあなたは喜びを捨てきれずにいる。
一度生まれて一度死ぬ。
           One Life, One Death.
あなたに愛がある限り
あなたは死ねない。
逆らっても変わらない。
死は平等にやってくる。
どんな残酷な死でさえもすべて平等で
誰でも一度死んで、灰になるだけ。
逝け。
(灰になるまで愛してる。)
blog - 295

中毒界。

見下ろした道路には
車の列が続いていて 信号待ちの車が
赤いライトを点灯しています

たくさんの赤いライトが
一斉に消えて

またすぐに赤いライトが並んでいきます
どこに行くかは 知りません

どこであっても
行く場所が ある 彼らが
うらやましくて 仕方がない

足のふるえがとまらない
さっき吸ったたばこの灰が 足元を汚している

ほとんど知らない人に電話をかけて
とりとめのない話をする

けれど けれど やまない
やまない
やまない

足のふるえが ずっとやまないんだ

 

blog - 294

月。

あなたは壊れかけの私が美しいという。
壊れかけの私は踊る。
鏡の中の私は相変わらず私でけして笑わない。
夜がくれば私の中で梟が鳴く。
目覚めない眠剤が欲しいと鳴く。
梟は私を出て夜のはしっこに降り立つと獲物を探してる。
私の森では狼が遠吠え、弱きものは鎧をまとって逃げまどう。
今夜の獲物が決まった。
私の森はお前を逃がさない。
走るそれを狼が追い、その先を梟が見張る。
1時間ももたなかった。
小さな少女。
私は少女の首を撫でる。
少女は赤い目をしていた。
(月。)

おまえは月か?

赤い月が私を睨む。
怯えなくてもいいぞ。
お前は私のものになれ。
お前の名前は今から月だ。
月と呼んだら返事をしろ。

月。
返事をしろ。

月。
はい。

帰るぞ。
はい。

口笛をふいて狼を呼ぶ。
腹を減らした奴らがぞろぞろと集まってくる。
手を差しだす。
寄ってくるその首を切り落とした。

さあ、今夜の獲物だ。思う存分喰らうがいい。

月。
行くぞ。

はい。

blog - 292

憂いに暮れる溜め息は闇。

アカシックレコードによれば
僕は明日死ぬらしい。
憂いに満ちた夜を越えて作り上げたのは砂の宮殿。
天窓から落ちてくる月灯り。

見上げた目を濡らすこれは何?

死が悲しいのは僕じゃない。
これは君の涙。

僕を許してくれるのかい?

僕の目を通して君が見るのは僕の溢れる血。
首筋を流れる熱い命。
傷みはない。
ただズキズキと脈動を感じるだけだ。
僕は見捨てられた孤児みたいにひとり震えてる。

何が怖い?

何も怖くないさ。
一番怖いのは僕だもの。
世界に捨てられ僕にまで見捨てられる僕という塊は何?
(すべて灰になれ。)

沈黙と静寂を破るメロディが鳴り響く。
僕を連れ去る5秒前、黒猫が泣いた。
おいで、黒猫。
僕ら闇に取り残された鼓楼。一緒に行こう。
色のない国へ。

結局、僕を殺せるのは僕しかいないってことか。
寂しい世界だ。

blog - 291

タナトス。

誰か、俺をぶっ殺してくれないか。
どんなに残酷なやり方でもいい。
そして、あとかたもなく消してくれないか。
なんの証拠も残らないように。
俺がいた証をすべて消して、俺そのものを嘘に戻してくれ。

今殺せ。
その指を引けばいい。
俺のあたまを吹き飛ばして記憶も全部なくしてくれ。
そして、もう誰も俺を思い出さないように、
俺を嘘に戻してくれ。

太陽が沈む。

ただそれだけのこと。
誰も気にしない。
誰も思い出さない。
夕暮れを眺めてるだけ。

宵闇に俺を殺して。

blog - 290

memento mori

ロブスターの晩餐は退屈で俺はそれを無視してワインを飲む。
ピノ・ノワール。悪くない。

君は遅れてきた。
ごめんなさいと謝って軽くキスする。
唇に残った香はディオール。

(3時間後)

君を引き寄せて冷たい舌で目を舐める。
涙の味がした。
(お前は誰だ。)
時計の針が逆流している。
君がいた。

小さな部屋。小声で囁いてる。
君は永遠とかずっととか言ってる。
でも、けして愛してるとは言わない。

隣に坐って俺を抱き寄せた。
耳元で囁く。

あなたが死にたいなら私が殺してあげる。

そお。
そうしてくれると助かる。

君は俺のこめかみに銃口をあてた。
目を閉じる。

一瞬の沈黙。(永遠)

引き金を弾くかわりに口づけをくれた。
俺を抱き寄せて囁く。

あなたは死んだ。これからあなたは私のもの。
生涯大切にするわ。

あなたを永遠に愛する。

blog - 289