KILL KILL

私は一日の時間の中でも0時過ぎが一番好きだ。
日付が変わる時刻。
今日から明日に変わって、今から今日だ、という時間。
日付が変わってもこの部屋も私自身何も変わりはしないけれど
何かが変わってくれそうな予感がするんだ。
予感がするだけで本当に何かが変わったことなんて一度だってなかったけれど。

私は寝室で詩集を読みながら考える。
こんなにも悲しい詩を書いた詩人たちは孤独だったのだろうか。
実は根は明るくて人生を割と楽しんでいたのはないか。
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NOT
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どれほどの孤独で彼らに届くだろうか。
私の孤独はひどく退屈で私を殺すことも出来ないほど弱くありふれている。
私にもボードレールやロートレアモン、リルケ、ヴェルレーヌらが書いたような詩をひとつでも書くことができるだろうか。
どれくらい悲しければ、どれくらい寂しければ、どれくらい死にたければ、
彼らのような特別な言葉で詩を綴ることができるだろうか。
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NOT
>
きっとどれだけの痛みがあっても私にはそんな詩は書けはしない。
私には特別な言葉がないから。
だから私が、どんなに詩を書き続けたとしても陳腐なものになるんだよ。
こんな言葉はいらない。
空から月を消してしまうくらい、もっと決定的な変化が欲しい。
悲しみで我を忘れるくらいもっと破滅的な変化が欲しい。
誰かがふと目を留めて読んでくれるような詩集がひとつでも書けたら
ロートレアモンのように死ねるのに。
私は忘れてしまったのだろうか。
生まれてから一度も消えたことのない孤独の冷たい温度を。
凍えて震える指先に刺さった絶望を。

私は22時54分ちょうどに時間を戻して、もう一度大好きな時間を待っている。
マニキュアの匂いに酔いながら爪が乾くのを待っている。
そして爪に触れないように丁寧に箱から一本タバコを取り出して火をつけた。
私に出来るのは明日を待つことくらいしかないんだ。
その明日もその次の明日も。

ーーーーー

好きな姿でいればいいのさ、黒い夜、赤いあけぼの。
ふるえる私の全身の筋という筋が一つ残らず
叫んでやまない、「おおいとしの魔王よ、おまえを崇める!」と。

Les Fleurs du mal XXXVII LE POSSÈDÈ/ Charles Baudelaire

公式ブログ用フォト - 1 / 1 (13)

真実のレプリカ。

ある夜 二目とは見られないユダヤ女の傍で、
死骸に添って横たわる死骸のようになっていたとき、
この売られた肉体のそばでふと思い浮かべたのは
わが欲望の届かない美しい人のことだった。

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もしも、ある晩、ふとにじみ出た涙でもって
君がかりにも、おお 冷酷な女たちの中の女王よ!
冷たい瞳の輝きを曇らせることがありさえしたら。

Les Fleurs du mal XXXII UNTITLED / Charles Baudelaire

もしも私が得たものが全て本物そっくりの偽物だったとしても
私は気にならないだろう。
その理由は私はそれが偽物だと気づくことはないからだ。
本物とそっくりであれば本質は変わらない。
ものであってもそうだ。
中身まで忠実に再現されたレプリカは機能としては本物と変わらない。
誰かが私にそれは偽物だよ、と忠告したとしても
私にとってはそれは本物と何も変わらないのだ。
大体において誰がそれを偽物とわかるというのだ。
全て忠実に再現されているレプリカだとして
その違いはなんだ。
違いは一つだけ、偽物だということだけだ。
本物と違うのは本物ではないということにつきる。
機能も外見も材質も同じ、そんなものの違いについて考えたところで何の意味もない。
少なくとも私にとっては。

「僕はもうここから出て行くけれど、二度と会うことはないけど、死ぬまで永遠に愛している」
「きみが死んだら、僕もすぐに死ぬよ」
「きみが本当に望むなら、僕が殺してあげる、痛くないように銃で頭を撃ち抜いてあげる」
「きみと過ごした一瞬は僕にとっては永遠と同じものだよ」
「きみのために僕は生きよう」
「きみのことが本当に好きだよ、今まで逢った人の中できみだけが特別だよ、未来までずっと変わらない」
「もしきみが辛いなら僕はいつでもさよならしてあげる」
「きみがもしもいない世界だったら僕はもう死んでいるよ」
「きみと過ごしたあの夏だけはたったひとつの大切な記憶、きみとすごしたあの夏だよ」
「きみと出逢えたことが僕が生まれてからたったひとつ唯一の喜びなんだよ」
「つまり僕はもうこの先きみ以外の誰も愛さないよ、きみだけがいればいいんだ」
「正しいとは思わないけれどそれでも僕はきみのしてきた悪を全て許すよ」
「傘を差さず雨に濡れて歩くきみを僕はしかったけど雨に濡れて歩くきみはとても綺麗だったよ」
「僕は幸せだよ、最後にきみに出逢えたから」
「僕のことを見つけてくれて本当にありがとう」
「きみだけが永遠だ」
「愛してるって言ったのはきみにだけ」
「世界の果てに連れて行ってあげる」
「またいつか逢おうね」

レプリカの葬列だよ。
美しいんだ。
全部私の愛しい真実のレプリカだ。
永遠に失うことはない。
もう全部私自身だからな。
私が偽物なんだ。
それを悲しいと思ったことはない。
私は偽物でも十分に幸せだから。
これが世界の果ての永遠。
色褪せないプリントの私。
私がいない世界の偽物の私。
あなたがくれた世界。
ありがとう。

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翳りとなる憂鬱、それは夜を支配し荒れ狂う静寂の刃。

おまえは、短刀の一突きのように、
泣き声立てるおれの心臓に食いこんだ。
おまえは、魔物の一団のような
力強さで、やって来た、狂おしく身構えて、

恥辱にまみれたわが精神を
おまえの寝床と領土にするために。
ー恥知らずめ おれがおまえから逃げられないのは
囚人が鎖につながれたよう、

賭博狂いが賭博につながれ、
酔いどれが酒壜につながれ、
腐った死骸が蛆虫につながれたよう、

ー呪われろ、おまえなんか呪われろ!

Les Fleurs du mal XXXI LE VAMPIRE / Charles Baudelaire

一日の目覚めが23時を越えてやってくるような私の存在。
あたりは静かで世界は完璧に闇に支配されている。
(それもそのはずだ。)
闇こそが私の本質であり、見上げれば黒い空に散らばって見える無数の小さな光の点ひとつひとつが全て私の欠片。
この闇が空を覆うあいだ、私は人間とは全く違う別の存在になる。
そうだ、私が夜だ。
ロウソクでなめした固いロープでぎゅっときつく縛られたようにおまえたちは動けない。
闇の中でどんな灯りを点けたとしても心までは照らすことは出来ない。
そうだ、おまえたちの中の憂鬱が夜だ。
憂鬱で悲しみに涙を流しているおまえたちの声にはあきらかに憎しみが込められている。
私を憎めばいい。そして、私を殺せばいい。
おまえたちが私を殺せたら、そのとき知るだろう。
闇がおまえたちの心から消えることはなく、
永遠の夜が呪いとなっていることに。
おまえたちは私がいなければこの世界が終わることを知らない。
それが私の願ったことの本質なのだ。
私は夜になってずっと思っていた。
この呪いを現実とすることを。
ただ今までそれを出来ないでいたのは、恋をしていたからなのだ。
けれど、それもなくなった。
私を苦しめてきたおまえたちを私は呪おう。
永遠に闇になれ。
悪魔が耳元で数を数えてくるぞ。
2、78、390、1002、400008、
絶え間なく聞かされる数を聞きながら、眠ることがいつか出来なくなったおまえたちはそのときに知る。
おまえたちも夜なのだと。

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わたしたちのろんりてききけつ。

知っているかい君も、私のように、味わい深い苦しみを、
君も言われることがあるかい、「へぇ! 変った男だ!」と。
ー私は死を迎えていた。愛にみちた私の魂の中で、
それは恐怖のまじった欲望、独特な苦痛だった。

Les Fleurs du mal CXXV LE RÈVE D’UNCURIEUX / Charles Baudelaire

かたちのないわたしたちはうしなったあるじのへやですきほうだいにした。
それであるじはまわりからおかしいとおもわれ、かわいそうにしんようをすべてなくすことになった。
それがいつからはじまったのかだれにきいてもだれもおぼえていないという。
ただし、あるじがしんでわたしたちがはじまったはずなのに、わたしたちのいきたじかんはきょだいなきおくのさばくのようにきがとおくなるほどとおいかこにまでおよんだ。
わたしたちは(ぼくたちは)あるじよりながいじかんをいきているというむじゅんをはらみ、それはわたしたちをつねにふあんていにさせる。
わたしたちにはわたしたちのそんざいがわかっているけれど、しゃかいてきにはわたしたちはひとしくあるじなのだ。
おまけにわたしたちにはじがもいしきもはっきりとあるのに、わたしたちどうしのきおくはきょうゆうされているぶぶんがおおいこともあって、わたしたちはわたしたちじしんのきょうかいせんをたしかにできないようなあいまいさがあった。
わたしはあなたじゃないのにあなたのことをしっている。
みんながそう、あるじいがいのわたしたちにはきょうゆういしきというようなものがあった。
あきらかにわたしがそれをしっているはずがない。でも、そのきおくをなくしてしまうとわたしはじぶんがいったいだれなのか、わからなくなった。そういったあいまいさをもって、しんじつはだれかがぜんぶどこかへかくしてしまったのかもしれない。
それをわたしたちにしられるとこまるだれかが。
それともかくしたいのはあるじがすでにいきていないというじじつかもしれない。
あるじのしのたいみんぐにあわせてちょうどよくうまれてきたわたしたちは、あるじのかわりのにんぎょうか。
あさがくればわたしはめざめる。でもまいにちじゃない。わたしたちはあるじじゃないからながいゆめをみていてなんかげつもめざめないこともふつうにあるの。
わたしたちのじかんにはれんぞくせいというものがかけていた。
ゆめがどんなにながいじかんにかんじていたとしても、のうないではいっしゅんのうちにおわっている。
それとおなじようにわたしたちのじかんがとてもながくかんじていても、それはほんのいっしゅんのことなのかもしれない。
わたしたちのそんざいはげんじつでゆめではないけれど、とくせいとしてはゆめにとてもちかい。
でも、わたしたちはちゃんとここにいるよ。
それだけはげんじつだとだれもがわかっている。
ふあんていであいまいなこともおおいけど、わたしたちはそれぞれがいきている。
みんながじぶんのいしきをひとつのじがとしてもっている。
わたしはさよならで、じょうおうやみ。
じぶんがだれなのかわかっている。
なんじゅうじかんねむっていなくてもとけいをみればいまのせいかくなじこくをしることができるていどのせいみつさで、わたしたちはわたしたちをしっている。
それだけりかいしていればじゅうぶんなんだよと、あるじがしぬまえにわたしたちにいったから。

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無題の絶頂、殺戮のワルツと矛盾のレクイエム。

私たちのベッドには きっと ほのかな匂いがこもり、
長椅子はお墓のように深々として、
見たこともない花が棚に飾ってあるでしょう。
もっと美しい空の下で私たちのために咲いた花が。

Les Fleurs du mal CXXI LA MORT DES AMANTSI / Charles Baudelaire

消えそうになる意識と無意識の境で忘れていたあなたの横顔を思い出した。
意識と云うものはあるようでない、そう私に言ったあなたの横顔を。
赤いソファの前には楕円形のガラステーブルがあって、2つのコーヒーカップが置かれている。
私は沈み込んだ身体を起こしながらコーヒーカップを手に取ってゆっくりと飲んだ。
ねえ、きみ」とあなたが言った。
私は不意をつかれて右側を咄嗟に振り返る。
いるはずのないあなたが隣に座っていた。
これは完全に夢で私は今眠っているのだ、と心に言い聞かせる。
あなたはテーブルに手を伸ばしてコーヒーカップを掴んで私と同じようにゆっくりと飲んでみせた。
これは夢だから今目を覚ませばそれで終わる。
そう思っていながら私は意識を覚醒させることが出来ない。
いや、違う。
そうだよ、これは夢じゃない。」とあなたが言った。
私の無意識の中ではない。
でもここはどこだ。
白い床が何処までも続いている。
天井は無い。
空が青とピンクで夕闇を作っている。
そして、あるのはテーブルとソファだけ。
あと、私とあなた。
ねえ、きみが僕を殺す前に言ったよね。私は死ぬまであなたを愛しているって。
あれって、今も続いているのかい。」コーヒーカップをテーブルに戻しながら,あなたが言った。
こんな現実を作ってまで私はあなたに会いたいと思っていたのか。
こんな寂しい場所を選んで。
私はあなたの方を向いてあなたを見ていた。
私の記憶に有るあなたと全く同じあなたがそこにいた。
幻想でもいいか。
私は今でもあなたのことを愛している。それは死ぬまで変わらない。」
ー暗転
血まみれの私が血まみれのあなたと抱き合っている。
真っ赤に染まった私たちは目を閉じたままベッドに転がっている。
そのまま私は眠った。
目が覚めて見えたものは目を閉じたままのあなた。
あなたが死んでいた。
私が殺した。
理由?
私が殺したかったからだ。
愛していても関係ない。
私はそういう風に出来ている。
だから、私は愛することが大嫌いなんだ。
愛なんて余計なもの無くなってしまえば良いのに。
私は失うたびに黒くなる。
そして闇になった。
私のナイフをよこせ。
皆殺しにしてやる。
ー暗転
僕は何も後悔していないよ。」
きみに殺されたことも含めて全部ね。」
もう泣くのはやめたら。」
愛しているから。」
あなたの手を掴もうとして私の手がすり抜けた。
あなたの声が響き終わると全部消えた。
涙が雨のように顎を滴り落ちて私は悲しみの淵に立っていた。
私はここから飛び降りたい。
悲しみの淵の見えない底まで落ちていきたい。
それが出来ればあなたのところに行けるのに、と思ったところで現実に戻された。
悪趣味な悪戯だ。
私の意識を弄んでいる。
ああ、いいよ。
好きにすれば良い。
どれだけの苦痛を受けたとしても変わらない。

私はあなたを死ぬまで愛している。

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