2月10日のラプソディー。

ほがらかさにみちた天使よ、ご存じですか 苦しみを、
屈辱を、悔恨を、すすり泣きを、倦怠を、
あのおぞましい夜また夜の とりとめのない恐怖が
紙屑を丸めるように心を押しつぶすのを?
ほがらかさにみちた天使よ、ご存じですか 苦しみを?

Les Fleurs du mal XLIV RÈVERSIBILTÈ / Charles Baudelaire

2月になって冬も中心を迎えると私たちはとにかく眠ってばかりいた。
冬の寒さが情緒不安定にさせるせいで私たちは耐え切れずそれを全て冬に任せた。
冬は景色が真っ白でとても素敵だと言ってときどき私たちに声をかけてくる。
私たちは誰も返事をしない。
冬が大嫌いだから。
冬は天窓に降る雪を読書しながら飽きずに毎日みていた。
私しかいないから、とても静かね。
この風景を独り占めできるなんて最高に幸せだわ。
夜になって、暗くなると部屋に戻ってコンピュータのあるデスクの椅子に座って
ヘヴンを起動させると煙草に火をつけて、今夜の気分にあう音楽を探す。
>Paramore – Acoustic
乾いた空気に響くピアノとハスキーな彼女の声が悲しくて好き。
>Decode Acoustic
デスクの上にある睡眠薬の入ったボトルの容器を開けて今夜眠る分のクスリを
モロッコに行ったとき一目惚れして買った24金で出来たアラベスク模様のピルケースに詰める。
煙草をくわえたまま一錠一錠両手で押し出して忘れ物はないか確かめて蓋を閉めた。
それをデスクの端に寄せて目の前に広いスペースを作って鏡を置いて
デスクの端っこでマニキュアの群れに紛れてる青いボトルを手にとって蓋をくるくる回してあけると
とても小さな計量スプーンでマイクロスケールの上に丁寧にそっと乗せた。
>0.003
ボトルから少し出して足した。
>0.006
まあ、いっかー。
ハイになった冬は音楽を大音量でならし、ベッドの上で笑い転げている。
セックスしたいな。と呟いて携帯を掴むと真冬に電話をかけた。
5回目のコールで真冬が出た。
とにかく早く来てと真冬にせがんで
来なかったら私今夜死ぬから、と言って電話を切った。
そしてシャワーを浴びて、バニラのような甘い香りのローションをふりかけ、
髪の毛は丁寧に乾かし、アイライン、シャドウ、マスカラ、ファンデーションを軽く済ませて
洋服を選び、何もすることがなくなると、
またボトルを取り出してスプーンですくってマイクロスケールに乗せる。
>0.007
冬は鏡の上にラインを4本引いてそれを吸った。
またハイになった冬は電話をかけて、真冬が出ると 来るのにあとどれくらいかかるのよー、と聞いた。
真冬はあと40分くらいで着くよ、と言った。
冬は、遅いーー。早く早く。早く来なさいよねえ、と言って電話を切った。

セックスなんて本当は大嫌いなんだけどね。
だって私愛されてなんてないし、

早く死んじゃいたい。

1 (25)

ウインターミュート。

あらゆる罠 あらゆる重い罪から私を救い、
私の足を「美」への道へと導いてくれる。
この目は私の召使 そして私はこの目の奴隷。
わが存在のすべてが生きた炬火に服従する。

Les Fleurs du mal XLIII LE FLAMBEAU VIVANT / Charles Baudelaire

ああ、私は寒さに耐えながらあのことだけを望んでいたから、
耐え切れず理性をなくすのは簡単だった。
私はベッドの枕の隣に置いてある白いテディベアに振り返って引き寄せて抱きしめた。
(大好きなルシファー)
そして背中のファスナーをあけて中にあるチョコレートの丸い缶を取り出してあけて中身を確かめると
ますます心が踊りだすのを感じた。
心は早く早くと願ったけれど、私はワザとゆっくり動いた。
ベッドから降りてコンピュータデスクに移って煙草を吸いながら、
マニキュアを塗り直して乾くのを待っていた。
新しいマニキュアは色乗りがとても良くて、唇に爪を軽く当てるともう大体乾いていたけれど
きちんと乾くのを待つために二本目の煙草に火をつけた。
数分後、全ての爪を唇に当てて乾いたことを確かめると、
私は目の前の液晶ディスプレイに向かって自分のアカウントネームを丁寧に言った。
すると真っ黒だったディスプレイがぼんやりと光りはじめてグレイの背景に変わると中心に「ヘヴン」というロゴマークが浮かび上がった。

>ウィンターミュート を 認証しています
>ウィンターミュート を 確認しました
>ウィンターミュート で ログインしました

コンピュータがそう言うと広い画面全体に淡いブルーのルノワールの絵が広がってその上に沢山のアプリケーションのウインドウが並んだ。
冬は煙草を灰皿に投げ捨て、その上に飲んでいたペットボトルの水を垂らして消した。
それからチョコレートの缶を開けて中から2錠出すとピルクラッシャーで粉にして、
液晶ディスプレイが映り込む鏡のようなガラスデスクの上にまいた。
それを吸ってハイになった私は楽しくて観たかった映画や本を何本何冊と読んで、気がつくと4日が過ぎていた。
冬のクスリ遊びは4週間続いて、体重は10kg減った。
そして、ある日突然、「もういいかなー。飽きたし。」と言って、さよならになった。

1 (22)

レインメーカー、ティアドロップ、本当の私。

何を語るつもりか今宵、哀れなひとりぼっちの魂よ、
何を語るつもりか、わが心、かつては萎れていた心よ、
美しさのきわみ、善良さのきわみ、いとしさのきわみ、
聖なるまなざしでおまえを突如ふたたび花開かせた その女に?

Les Fleurs du mal XLII / Charles Baudelaire

私の部屋には沢山の人形があった。
それに私は一つずつ名前をつけて、いつも話しかけた。
当然、返事は来なかったけれど私は気にしなかった。
話し相手が欲しかっただけだったから。
私は16歳で学校が嫌いだった。
入学式が終わって三日も経たずに陰湿ないじめが始まった。
みんながまるでダーツをするように私を的にして中心に狙いをつけて矢を投げてくる。
だから、私は嫌だって言ったのに。
母親が私の進学校を決めるときに
私立のお嬢様ばかり通うステータスの高い学校だからと
ほぼ強引に決めて私はそこに入学させられたんだ。
友達なんて誰もいない。
家族と会わなけれな誰とも話しをしない日もあった。
要するに私はとても孤独な女の子で
沢山の時間を持て余していた。
それで私はあるウェブサイトを見ていたときに、
カタンドールを目にして一目惚れをしてしまったのだ。
それからは早かった。
カタンドールの購入資金は両親から与えられた16年間分の信託口座の残高を全て使い、
なくなったら父親にねだり、母親にもねだり、おじいちゃんにねだり、おばあちゃんにねだり、
もう誰もお金を出してくれなくなったとき
私の人形集めは終わり、人形一体一体に名前をつけて
一人ひとりの性格や年齢、性別、職業まで徹底的にこだわり
人形としてではなく一人の人間として扱えるように個性を持たせた。

人形は全部で16体あった。
名前はこれ、

永遠(とわ)
虚ろ
さよなら


女王闇
ジンロウ
語り
ミクニ

殺(せつ)
アンブレラ

椿
四季

さよなら、女王闇、冬だけが女であとは全部男にした。
年齢もみんなかけ離れているから、話し方も声も何かも違う。
私は学校では一人も見つけられなかった友達をこの部屋で16人も見つけたの。
それからはずっと自分の部屋にこもるようになった。
頭の中で友達と話しをしていたから。
そんな日々が二年くらい毎日続いて、気がつくと本当の私はもう死んでいた。

1 (21)

孤独のラブレター。

《どこからあなたに来るの、とあなたは言うのだった、海のように
黒い裸の岩の上まで満ちて来る、そのおかしな悲しみは?》
ー私たちの心がひとたび獲り入れをすませてしまえば、
生きることは痛みの一つ。誰もが知っている秘密なんだ、

Les Fleurs du mal XL SEMPER EADEM / Charles Baudelaire

薄明かりに照らされた広い部屋の中心に2mくらいの弧の字を描いた黒い強化ガラスデスクとシステムチェアが置かれ
その上にデスクと同じ幅の大きな液晶ディスプレイとコンピュータがあった。
部屋の中心はそのコンピュータデスクとベッドが置かれ
本やCDなどコンピュータに関係のないものは全部壁一面に備え付けられた棚に納められて整頓されていた。
ベッドと壁の距離は大体5mくらいあって、それがさらにこの部屋を広く感じさせた。
毎日のほとんどの時間をここで過ごしているのに生活感を感じさせないのは何もかもが整っている、この空間のせいか。
マンションのショールームのように誰かが住んでいる気配がない。
それでもこの部屋は彼らの部屋で彼らの痕跡は確かにあった。
空気に爪痕を残すような見えないやり方で彼らはここに確かにいる。
だから、彼らの存在は朝方に見る一度目の夢のような朧げな記憶のように曖昧だった。

蝶々のように私はふらふらと逝く、
青いインクで書いた遺書は宛先不明で
何処にも届かず
私は誰もきづかない死に方をする。
バイバイ、
私もう逝くよ、
あなたは知らなくて素敵。
私のいない世界で
あなたは幸せでいて、
ずっと愛してる。

でもね、
これ全部夢なのよ、

だから、どうってことないの。
退屈な世界ね。

(だから私この世界が大嫌い)

1 (20)

悪の花。

「病気」と「死」とが灰にするのだ
われらのために燃え立った焔をすべて。
あれほどに情愛こめてやさしかった あの大きな目も、
私の心がそこに溺れたあの唇も、

匂い草のように強烈だったあの接吻も、
光よりももっと烈しかったあの陶酔も、
いま何が残る? 恐ろしいことではないか。 魂よ!
三色の鉛筆がきの、色あせたデッザン一枚ばかり、

それさえも、私と同じに、孤独のうちに死ぬのだ、
そして「時間」が、あの無法な老いぼれが、
毎日それをざらざらした翼でこする・・・・・・・・・

「生命」と「芸術」を消す黒い殺し屋、
おまえにも決して殺せはしない 私の記憶の中の
わが喜び わが栄光だったあのひとを!

Les Fleurs du mal XXXVIII UNFANTÔME IV/ Charles Baudelaire

私は燃え尽きたい。
心も体も全部何かも灰になって風に吹かれて散って見えなくなるまで。
この目が見たものが全部悪であるように
私もまた悪であった。
嘘をついた。
人から奪った。
人を殺した。
私の見たものが私を断罪しようとするけれど
私は純粋な悪だから裁くことは誰にも出来ない。

思えば、枝に咲いた真っ赤な椿を折って髪に差した私は
冬の澄みきった空気の青空の下で涙を流している。
誰のための涙かと問うても、誰と覚えていられるはずもない数を殺してきた私にわかるはずもない。
私は殺し屋だから、当たり前なんだけれど。
殺すという感覚が空気のように透明になって頭の中をクリアにしていく。
私は冷たい冬が好きだ。
全部が透明でどこまでも見えるような気がする。
空は青くて私を染めようとするけど、私は絶対に青になんて染まらない。
透明でいたい。
誰にも見えなくて髪に差した椿だけがそこに咲いている、
そうなれたらいいと思う。
だって私は本当はいない、ただそこに咲いていたような気がした一輪の花みたいなものだから。
悪の花。
それが私なんだから。

1 (19)

さよならとアリスインワンダーランド。

はかり知れない悲しみの この穴倉は
「宿命」が とうに私を追いこんだ場所。
薔薇いろの明るい光がさすすべもない場所。
「夜」という、無愛想な女主人と二人きりで、~

Les Fleurs du mal XXXVIII UNFANTÔME I / Charles Baudelaire

私は液晶ディスプレイに表示された「ヘヴン」という言葉、「はじめますか」というボタンの
意味がわからず、「ヘヴン、天国、何。」と言った。
これは私のじゃない。
誰のかはわからない。でも、気になった。
ただのゲームかもしれない。新しいOSかもしれない。
でも、大きな画面の真ん中に表示されている「ヘヴン」というロゴからは
大きなもの、何か異様な感じを受けた。
「はじめますか」
このボタンをクリックしたら
コンピュータの何かが変わるだけじゃない、
世界の何かが変わってしまうのではないかと私は思った。
「ヘヴン」なんていうOSは聞いたこともないし、
ラップトップのコンピュータで調べてみたけど、出てきたのは、
キリストにおける天国のウィキペディア、同名の小説、
誰かも知れないブログの数々、
この「ヘヴン」に関係する記事はひとつも見つけられなかった。
誰の仕業かな。
「はじめますか」
クリックしてみようかと何回も思ってはどうしてかやめた。
これは私のじゃない。
あああ、と声に出してベッドに背中から倒れ込んでさよならは天国について思った。
安らぎの場所、良い行いをして死んだ人が行く場所、
でも、悪いことをした沢山してきた私たちには縁のない場所。
そう思ったところでひとつ気付いた。
この「ヘヴン」には入り口しかない。
「はじめますか」選択肢は二つだけ。
クリックするか、無視するか。
まるでアリスインワンダーランドみたい。
でもワクワクなんてしない。
理由を上手く言えないけどなんとなく嫌な感じがした。
怖いとも思った。
全く誰のせいなのよ。
私はただAmazonでショッピングがしたいだけなのに。
結局は私は「ヘヴン」を無視した。
携帯電話のブラウザを使ってショッピングすることにして。
そしてベッドに倒れ込んで横になって携帯電話の画面を見ているうちにいつのまにか眠っていた。

ヘヴン。

太陽が喪のヴェールに顔をかくした。それと同じに、
おお わがいのちの月よ! すっぽりと闇に包まれなさい。
眠るもよし 煙草を喫むもよし。じっと黙って、暗い顔で、
「倦怠」の深淵にそっくり沈みこんでいなさい。

Les Fleurs du mal XXXVII LE POSSÈDÈ / Charles Baudelaire

「HAPPY BIRTHDAY!」
午前0時を過ぎるとさよならは必ず声に出して言った。
世界中のどこかで毎日がきっと誰かの誕生日だよ。
だから、誕生日おめでとう。素敵な年になりますように。
知らない誰かへ。
私には誕生日はないから、羨ましいな。
私の時間はいつ始まったのか、それは誰にもわからない。
壊れていた時計の針は気まぐれに動き出した。
そして、なんの前触れもなく、私は私という存在を知った。
だから、私には誕生日がない。
私が私を知ったとき、私は既に産まれたあとだったから。

バニラの香りがする紅茶を飲みながら、
私は今日が誕生日な誰かさんはどこの国のどんな人なんだろうと考えていた。
きっと何人もいるんだろうな。
世界中だもん。
100人くらいいるかも。
毎日誰かが誕生日を祝ってもらう。
ケーキを食べたり、プレゼントをもらったりするのかなあ。などと考えていたら、
急に眠気が襲ってきて、どうしようもなくてベッドに倒れこんだ。
私は目を閉じてすぐに意識をなくし、3秒後に目を開けると虚ろだった。

大きな液晶ディスプレイに映るブラウザを見つめながら、今日4本目の煙草に火をつけると、
虚ろは右手だけで素早くキーボードをタイピングしていく。
コツコツと小さな音がマシンガンの連射のようなスピードで鳴るたびにブラウザには次々とウェブサイトが並んでいった。
そして液晶ディスプレイ全体が数百のタブで埋められてタブの幅が鉛筆の幅ほどしかなくなると、
液晶ディスプレイが上下5段のタブに変化した。
虚ろは左手に持っていた煙草を唇に挟んで両手でタイピングを始める。
2分もしないうちに上下5段の全面が約2万ほどの小さなスクエアに変わり全てのタブが埋め尽くされていった。
何億というワードの群れにブラウザが悲鳴をあげるように動きを鈍くすると
虚ろは小さく「ちっ」と舌打ちをして、ブラウザのAI検索モードをオフにして
唇に挟んだ煙草を左手でつかんで灰皿にねじ捨てると
その脇に転がっている口紅を模した光学メモリを液晶ディスプレイのサイドスロットに差した。
そのあと虚ろは頭まである背もたれに深く沈みこんで新しい煙草に火をつけてゆっくり煙を吐きながら
キーボードのenterキーを右手の人差し指で軽く叩くと小さな声で「終了」と言った。
そして、目を閉じて眠り、7時間後に目覚めるとまた私だった。
一番最初に見えたのは目の前にある液晶ディスプレイの真っ白なスクリーン。
スクリーンの真ん中に黒い大きな文字で「ヘヴン」と表示されていて、その下に「はじめますか」と書かれたボタンがあった。

1 (17)

人形使い。

あの誓い、あの香り。あの限りない接吻は、
よみがえるだろうか われらのさぐりの届かない深い淵から、
さながら太陽が 底知れぬ海の底で身を洗い浄めたあと
日ごと 若返って 空へと昇るように?
ーおお 誓い! おお 香り! おお 限りない接吻よ!

Les Fleurs du mal XXXVI LE BALCON / Charles Baudelaire

かなしいね
かなしいね いきてるって
いきてるってどうしてかなしいんだろ
とわもうつろもなにもかんじないって いってたけど
ぼくはとても かなしい
しんけいのしなぷすを すこしだけあけて 
しんけいのなかを でんきがながれていくだけなのに
それが かなしいとか うれしいとか 
くべつして ふくざつなねっとわーくを つくっているだけなのに
じぶんのしんけいを ぼくはせいぎょできない
もし じぶんのしんけいをせいぎょできたら
かなしいはなくす
うれしいだけにする
じぶんなのに じぶんのからだなのに
じぶんで こんとろーるできないなんて にんげんて
ほんとうに ふべん
A10しんけいを しげきして つねに
どーぱみんだけを ほうしゅつできたら
すっごい きもちいいだろうな

そのためのくすりか
あれは
あれがあってよかった
いつわりでも
かなしい より きもちいい が
いいもんね
ねえさまに もらいにいこう
かなしいなんて
いっしゅんでも ぜったい いや
おおめにもらってこよう
おきてるあいだは
ずっと あれで わらっていればいいや
うれしい

僕は泣きながら、笑った。
涙を流しながら
どうしてもおかしくて
楽しくて
理由なんてないけど
本当に楽しくて仕方ないんだもん。
生きてるって本当に楽しい。
生まれてきてよかった。
ありがとう。

1 (16)

花言葉は「奇跡、神の祝福」そして「不可能」。

刀が折れた! われらの青春も同じこと、
恋人よ! けれども歯が、といだ爪が、
すぐさま剣や 頼りない匕首の仇を討つのだ。
ーおお いい歳をして恋に狂ったすさまじさ!

Les Fleurs du mal XXXV DUELLUM / Charles Baudelaire

たまには私の話もしようか。
何が聞きたい。
興味ないか。
なら、なんでもない話をしよう。

ーーーーー

猫を膝の上に抱いて、温もりで癒されているとき、
荒れ狂った海辺の波のように何度もやってくる悪の欲求が私を狂わせる。(あなた誰?)
唐突にやってくる、この子を殺したい、と云う欲望にあたまを支配されそうになりながら、
私は、愛してるニア、と涙を流す。
膝の上では今もニアが丸くなって寝ている。
なのに、私はニアの首を絞め殺したくて、
ニアの腹を裂いて内臓を引きずり出したくて、
ニアを殺したくて、
残酷に殺したくて、涙が出る。
私のあたまの中でニアはもう100回以上死んでいる。
愛しているのに。いや違う、私はたぶん、本当の愛を知らないんだ。
そうでも言ってくれないと私は何も愛せない。
ああ、誰か私にもう死ねと言って、私を殺して欲しい。
目的も知らずにそうやって大切なものをみんな殺してきたのに、
私は泣きながら笑った。
ナイフで心臓を貫きたいと思う夜もあった。
可笑しくて可哀想な私。
私はそう云う仕組みで生まれた。
架空の私。

大丈夫、私にも死はいつか訪れる。
みんな、一度だけ生きて、一度だけ死んで、終わり。

28 JANUARY 2016 PM21:01
今日も私はニアの墓に青い薔薇を捧げた。

公式ブログ用フォト - 1 / 1 (16)

宇宙のように深淵に永遠と虚ろ。

いつかおまえが眠りについて、暗黒のわが恋人よ、
黒大理石でつくられた墓の底深く横たわり、
寝部屋と言い屋敷と言うもいまはただ
雨の漏る穴倉と くぼんだ墓穴でしかなくなるとき、

石の重みが、おまえの怯える胸を押しつけ
魅力的なけだるさにたわむおまえの脇腹をおさえつけて、
おまえの心臓が鼓動もできず望みをもつのも許されず、
おまえの足が恋路を走るのも妨げられるときに、

墓は、わが見果てぬ夢を知る友として
(なぜなら墓はいつも詩人を理解してくれるから)、
眠りの追放された大いなる夜また夜のあいだ、
こう語るだろう、《何になる、娼婦になりきれなかった女よ、
死者たちがなぜ泣くのかを知らなかったからと言って?》
ーそして蛆がおまえの肌を悔恨のように噛むだろう。

Les Fleurs du mal XXXIII REMORDS POSTHUME / Charles Baudelaire

「永遠、私の冷たさはお前にとっても痛みか。」
姉様の言葉は目的のないテロリストのように鋭くとても細い針が目を突き刺すように前触れもなく唐突にやってくる。
僕は姉様の冷たい手を握って、笑顔で言う。
「姉様、痛くないよ。僕には姉様の温度が一番気持ちいいんだ。」
本当は痛いことを我慢して姉様の手を離す。
(怪物が棲んでいる僕の中の闇で死んだ宿主のことを憐れむ無痛の延命治療よ、最大限の痛みでこの世界を貫け。)
僕は姉様の長い爪に光る闇を見ていた。
痛みと闇は似ているのかな。
闇の中に無数の小さな点が散らばっている。
宇宙のように。
廊下でミクニに会った。
「ねえ、ミクニ、痛みと闇って似ているのかな。」
ミクニは足を止めずに少しだけ歩く速度を緩めて、
「痛みと闇に関係性はない。似てない。」と言った。
関係性はないな、確かに。
どうして僕はさっきそう思ったんだろう。
意味なんかないのに。
間接照明だけの最低限の灯りが僕の部屋を照らしている。
眩しいのは嫌いなんだ。
本当は暗闇がいいんだけど何も見えないと困るからつけた灯りだ。
窓はいつも真っ黒いカーテンが外の景色を隠している。
何も見えない空間が好きなんだ。
黒になりたいな。
そこに何があっても隠してくれる黒になりたいな。
あ、でもそれならやっぱり、夜になりたいな。
夜に憧れるなあ。
かっこいいなあ。夜。
タバコの煙をモニターディスプレイにかからないように上に向けて吐いた。
このまま、タバコの煙みたいになくなれたらいいのに。
時計を見たら00:07:14を示していて
時刻の上に緑に光る「SLEEP」という文字が睡眠の時刻を知らせていた。
ピルケースを手に取るとじゃらじゃらという音がした。
開けて睡眠薬を手のひらに全部出して一度に口に放り込んで水で飲み干す。
僕はゲーテの詩集を手にとってベッドに入った。
そして、眠り、虚ろになった。

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