蒼い羽根が咲いたら、また会いに行くよ。

blog_2 - 210

夜の公園で見上げた空は星が小さく輝いていた。
東京の空でも冬はこんなに星が見えるんだ。
僕はきみに少しだけ怒っていたから
きみのことを無視して姿が見えないところまでゆっくり歩いた。
そこで星をじっと見ていた。
オリオン座が見えた。
きみは実験だと言った。
これが僕の心を治すための実験だと言った。
要するに治療ってことだ。
そんなこと頼んでないのに。
面倒くさい女だと思った。

前にここで一緒に暮らしていた人がいた。
細くて肌が白くて感情がころころ変わる可愛い人だった。
いつも笑ったり怒ったりしてた。
1年前くらいにこの公園通りで彼女を送ったことがある。
タクシーなのにすぐにつかまえないで少しだけこの道を一緒に歩いた。
なんでだったんだろう。
繋いだ手に彼女は手袋をしていた。
そして、出かけるのは彼女なのに別れ際に気をつけてね、と言ったんだ。
おかしいよね。
僕は部屋に戻るだけなのに。
でも、あの人は気をつけてね、って言ったんだ。
懐かしいな。
タクシーに乗って、振り返る彼女の心配そうな顔を覚えてる。
今思えばあれは心配してる顔じゃなくて寂しそうな顔だったのかもしれない。

気がつくと一人だった。
星の中に一人だった。
それは多分彼女も一緒だったろう。
僕は暗がりの方へ名前を呼んで彼女を見つけた。
そして、彼女がカフェに行こうって言うから仕方なく行ったんだ。

黄色い羽根は過去を予言する。

blog_2 - 209

ちらちらと僕を見つめ続けるきみへ
僕が明かしたのは本当の名前。
その名を口にすれば僕はいつでもきみの元へ行く。
ああ、愛しているよ。
いつまでも、愛しているよ。
足が折れて歩けなくても腕だけで這っていくよ。
愛情なんて簡単な言葉で片付けないで欲しい。
これは永遠の忠誠。
その名を口にすれば世界がなくなろうとも
この身を捧げよう。
ああ、、愛しているよ。
今日の羽根は黄色くて綺麗。
明るい気持ちになれる。
ああ、ありがとう。
愛してる。
その名を口にすれば、、、、、、
ああ。

赤い蝶々はモノクロームの夢を見る。

蝶がちらついて眠れない僕は
蝶の絵を描いて蝶のことを知ろうとしている。

blog_2 - 208

思えば僕が壊れたのは
もう5年になる。
沢山のクスリを集め、コレクター気取りで自慢してた僕に
蝶は群がった。
蝶が来る度に僕は羽根をむしり取った。
心なんて無視できる範囲で
踏みつぶした。

影が出来る路地で二人太陽から隠れた。
きみだけは飛ばせてあげたかった。
太陽の季節を過ぎたら飛ばせてあげるつもりだった。
公園の桜の樹にきみを置き去りにして
きみはそのまま飛べば良かった。
けど、きみは飛べることに気がつかなくて
ここへ戻ってきた。
仕方なく、きみの羽根をモチーフに蝶の絵を描き続ける。
きみの羽根がどれだけ美しいか。
きみの羽根がどれだけ高く飛べるか。
知らないきみは音楽だけを愛した。

不時着するようなきみの着地は
僕を不安にさせるから
何処へ落ちてもいいように世界を作り上げなければいけなかった。
こういうことが僕を陥れると知っていても
僕は騙されて生きるしかなかった。
冷たい指先にとまるきみの羽根がかさかさと震える。

何度蝶の絵を描いても終わらない。
何度きみの絵を描いても終わらない。
これが世界の果て、終わらない世界。

3月28日ー3日=3月25日

不埒な夢で僕の声はきみの声だった。
きみの声で僕が言う。愛している、と。

blog_2 - 207

印象的な幻滅回路を構想しているきみは
彼の言葉を自分の声に変換する。
私はあなた。

ねぇ、わたしのこと愛している?

私の声で彼の声が響く。
愛しているよ。

熱い夏の夜、きみが出かける前に
不安そうな僕はきみの写真を撮っていた。
彼女が部屋を出て行くと
僕はアルファビルを見ていた。
アンドロイドに恋する映画。
3日前のきみの誕生日にうさぎを思い出したよ。
うさぎのぬいぐるみ。
きみが大切にしていたうさぎ。

雨の降る夜の公園で恋をしてから
僕はきみだけを見てた。
緑の芝生が続くなだらかな斜面の上でピクニックをしたね。
傘を差しながらカクテルを飲んで
なんの話しをしたのかな。
でも、あの暗がりの二人だけの世界と緑の匂いは消えない。

きみは今何をしてるんだろう。
僕は何もしていない。
ただ生きているだけ。
自慢できることもない。
言葉の世界に浸って心を保つだけ。
クスリに頼って生きているだけ。

白いきみはいまどこで何をしてますか?
白いきみはいまどこで、、、

5年前の僕へ

黄色い猫のテーマ。

僕の目に映るきみの目に映る僕は誰?

blog_2 - 206

黄色が吹き出してくる夜は
猫の鳴き声に似た風の音がして、
僕は振り返ってしまう。
振り返るとそこに黄色の猫がいて
僕に命令をする。

ニャーという声と爪研ぎの音で奏でるマリーゴールドは
砂にまみれた大気を吸って生きている。

お前、死ねよ。
お前、死ねよ。
お前、死ねよ。

三度繰り返した。
黄色の猫は僕の首筋にラインを引くように跡を付ける。
爪のあとは赤く腫れ上がりかゆくて仕方がない僕は
蝋燭に火を付けて、それを首に押しつける。
途中で携帯が鳴ったけど、無視した。
無視された携帯から流れるメロディが言う。

お前、死ねよ。
お前、死ねよ。
お前、死ねよ。

三度繰り返す。
僕は首筋の跡に沿ってナイフを突き立てる。
血が噴き出すのを鏡越しに見ながら、
僕はピースサインをする。
平和のマーク。
僕が死ねば、僕の世界は平和。
僕が死ねば、きみの世界は平和。
悲しみとかももうないよ。

鏡に倒れ込む僕はもう痛みさえない。
鏡に映る僕はもうきみの目に映る僕ではなくなって、
ひくひくと動く手の指輪が赤くて綺麗。
目を開けていても光もない。
音もない、そして、(これが大切。)
僕がいない。

退屈しのぎに雇われた黄色い猫の肖像が笑ってる。
きみの目は今何を見ているんだろう?
さよならを言うの忘れたよ。
そういうのって大切だっていうよね。
でも、別にいいよね。
死んだんだから。
別に気にしなくてもいいよね。
もうことばもかたことになってしまういしきがみだれてしゅうちゅうできなくてだめつめたいだれかぼくをしかってよつめたいさむいだれかぼくをわすれてよきいろいねこってほんとはなにわからないわからないだけどりふじんだけどつごうがいいだからこれでいい

3分前に僕は夢できみにあうよ
けれどゆめだからふたしかなものだよ
必ずもどっておいでって言ってほしかった
ずっとかなしかったってだれかにきいてほしかった
何がかなしいのかはぜんぶわすれたけど
でもかなしいからきいてほしかった

プツン。

牡丹灯籠。

言葉より愚かな目が言う。
「あなたの心に三重の鍵をかけたい。」と。

blog_2 - 205

夕食のあとで、散歩に行きましょう、ときみが言った。
部屋を出て目的地もなしに歩き出すと
街灯が僕らをよけるように脇に早足で去っていった。
実際、僕は彼女のことなんて気にしていないくらい早歩きだったと思う。
いつもの病院へ抜ける道を歩いた。
その近所には大きな公園があって、
そこは今の部屋に移る前に住んでいた家の近くだった。
僕は以前の家を引っ越してから一度も見ていない、というより見たくなかった。

前に住んでいた家を見に行かない、と彼女は言った。
僕は行きたくない、と答えて、彼女の手をつかんで公園へ向かった。
本当は、公園にも行きたくなかった。

7ヶ月前ー
夜の公園で僕はブランコに乗っていた。
隣には違うきみがいて、その日はその子の誕生日だった。
あの日、彼女は家にいて僕を待っていた。
なるべく早く帰るつもりだったのに残業がのびて
帰りの駅を降りて家に着くと23時すぎてた。
玄関を開けると、間に合ったね、とリビングから顔を出した彼女は笑った。
僕はそのまま靴を脱がずに出かける準備の済んでいた彼女を連れて
公園近くのレストランに行って、
小さな花火がロウソクみたいにのっているケーキを二人で食べた。
花火じゃ吹いても消えないね、ときみは笑って
花火が消えるまでずっと見てた。
そのあと夜の公園を歩いてテニスコートの横にあるブランコを見つけると
これにのりたい、と彼女が言うから二人でブランコをした。
彼女とはそれきり会ってない。

僕らは公園を歩いた。
僕は林の中で空を見てた。きみがいたのに無視して空だけ見てた。
二人離れてお互い見えない位置から、同じ空を見てた。

そして、きみは、一つの終わりをあなたにあげるわ、と言った。

もうここにいないきみへ、いまここにいるきみから
さよならを僕は告げられた。
冷たい空気が頬を撫でる夜だった。
帰り道にレストランに寄ってケーキを食べた。
きみは花火が消える前に花火をはずして
これ、食べにくい、と笑った。

死にたい世界。

僕はうかつにあなたの瞳を見つめた。
そこに映るのは僕ではないと知っていながら。
きみの手首をナイフで切った。
僕はその血をワインに注いで飲んだ。
僕の手首をきみが切った。
きみはその血をワインに注いで飲んだ。
二人の命が繋がる気がした。
あれは世界の果てだった。
きみが誰かと携帯で話していた。
僕はそれに嫉妬してた。
だから、何か無茶がしたかった。
きみは知らなかったよね。
何故僕があんなことをしたのか。
僕は馬鹿できみの心を独り占めしたかった。
冷たい頭の中に熱い流れを感じたのは5時間後。
目が覚めた。
僕は時間を越えることが出来た。
その代償に身体の自由を奪われた。
頭がとにかく熱かった。
熱さと寒さが交互にやってくる。
きみは僕の症状を調べていた。
3日間、きみの隣で夢をみてた。
その朝、もう意識が消えかけようとしてた。
きみは僕の死を悟っていたのかも知れない。
そして、きみは僕を殺そうと決めたんだ。
ナイフで僕を殺そうとしたんだ。
だけど、結局殺せなかった。
僕はもうどうでもよかった。
きみが僕を殺すくらいなら僕はどうなってもよかった。
(きみには僕は殺せないよ。)
119をコールして、僕は諦めた。
朝6時に救急車が来た。
きみはメイクの途中で僕の隣に乗って、
僕の症状を救急隊員に伝えた。
肝心のことは言わなかった。
きみはまだ諦めていなかったから。
僕はきみに殺されていいと思いながら、
きみに罪を着せることは絶対に嫌だった。
バイタルは安定してた。
だけど、意識が消えかけていく感覚に僕は恐怖した。
いつ死んでもいいと思っていたのに。
病院はすぐには見つからなかった。
きみは僕の手を握ってた。
世界の果てがあるなら、
こんなとこだろうか、というような病院に搬送された。
ぼろぼろの古い病院だった。
あれが死にたい世界の入り口さ。
でも、僕は生き延びた。
ぎりぎりで生きた。
きみのおかげで僕は生かされた。
どうしてこんなことを書いているのかと言えば、
これが僕の永遠に終わらない夏の物語だからだ。
何年経っても変わらない。
あの場所、あの部屋が、僕たちの世界の果てだった。
永遠に終わらない夏。
思い出す。
きみの温もりを。
いつか僕がきみを殺してあげる。
だから、それまで生きていて。
死にたい世界さ。
色の溢れた死の世界さ。
痛くないよ。

blog_2 - 204

記憶のアポトーシス。

言葉の嘘が僕を偽ろうとする。
僕の本当の思いは誰かに伝わること無く
沈んでいくから。
しわだらけの手で僕を撫でるその手を振り払った。
博士、僕はもう自分の意志で生きていけるよ。
どうして博士は僕に嘘ばかりつくの?
僕の望んだのはいつも真実だよ。
あなたのあたまぐちゃぐちゃにして
真実を探ろうとしたけど
死んだ脳は何も語らないね。

赤い時計をきみは、綺麗だと言ってくれたね。
だから僕はそれをきみにあげたんだ。
きみがラッキーカラーが赤だって言うからさ。
今も持ってるのなら嬉しいな。

冷たい風の吹く部屋で
二人ベッドに入って音楽を聴いていたね。
真夏なのに、あの部屋は10℃で、
エアコンの音が響いていた。
暗くなるのを待って外に出かけたね。
だからかな、きみといたのは八月だったのに
暑かった思い出が少ない。
一度だけ僕が救急車で運ばれて、
きみが付いてきてくれた日を覚えてる?
あのとき運ばれた病院はエアコンが無くて暑かった。
何度も点滴をして、
帰ることができたのは夕方だったけど、
病院の外は凄く暑くて
タクシーに乗って部屋まで帰ったんだよね。

博士、新しいクスリ、もらっていくよ。
これを飲んだら、もうあなたのこと思い出すことも無いよ。
博士、生きていたら聞きたいことあったんだ。
どうしてこんなクスリ作ったの。

みんな、さよなら、僕の記憶、さよなら。
タブレットを噛み砕いて飲み込みながら僕は天井を見ていた。
あたまの中に大きな光が溢れた。
痛くはない。
乱雑に積み重ねられた本が
一定のルールで整頓されていくような感覚。
ア行には愛してる。
カ行には回想。
サ行には五月雨。
タ行には退屈。
ナ行には夏。
ハ行には蠅。
マ行には真夜中。
ヤ行には夜景。
ラ行には羅列。
ワ行には輪。
アポトーシスのような記憶の整理整頓が終わると
僕はもう僕ではなかった。
だけど、覚えてる。
夏。
暑かった病室。
隣のベッドで眠るきみ。
沢山夢を見たこと。

僕たちは病院から部屋に戻って、
そのあときみが部屋を出て行って、
僕は一人で偽物のピストルをこめかみに当ててバーンと言ったんだ。
頭が吹き飛べばいいとバーンて言ったんだ。

blog_2 - 203

心忘れ。

1800秒さえ、思い出せない。
私の深いところまで時間を司る砂と共に、
あれは隠されてしまった。

クリアコートを塗ってからマニキュアは塗るんだよ。
最初に右手を塗ってから左手を塗るの。
細かく塗る必要はないんだ。
大体少し離して見て綺麗に見えていれば大丈夫。
初めは、きみが僕の手をとってマニキュアを塗ってくれた。
冷たい感触が気持ちよかった。
そして、きみは僕にマニキュアをプレゼントしてくれたんだ。
黒と赤とクリアコート。

爪は切っちゃダメ。
磨くものなんだよ。
そう言ったのはたぶん、あのこ。
そうだね、今でも僕は爪を磨いているよ。

綺麗な思いなら、どうして
それが悲しいものに変わっていくのか。

僕はもう背負いすぎてきみのピンキーリングさえ思い出せない。
ロザリオリングの形だけを覚えている。
きみにあげた最後のプレゼント、ギャルソンのコート。
僕はこうして思い出をひとつずつ数えているけど
何の意味があるのか、わからない。

カルティエのリングが輝きを失わないように
心さえ変わっていかなければ良かったのに。
だけど、変わっていなければ君たちに会うことも無かった。
きっとこれは必縁で通らなければいけない道だっただろう。
僕が僕でなくなってしまうように
僕が僕を殺せるように。

勘違いしないでよ。
僕が死ぬのは、悲しいからじゃない。
僕が僕の死をみたいからだ。
普通とか言わないでよ。
そんな言葉は欲しくない。
冷たい体に冷たい記憶。
凍り付いてゆく自分。
かっさばいてよ、ナイフでさあ。
輝いた自分をめちゃくちゃにしてさあ。
すべて忘れるように。

5:00のアラームがなった。
飲みにいこうか。
今日という日を忘れないように。
君たちがめちゃくちゃにした僕はここで果てて
心忘れ。

blog_2 - 201