目覚めた。
窓の無い部屋からは時間を知ることが出来ない。
ベッドから起き上がると
灯りが灯った。
青白くて丸く、天使の輪のような形。
ベッド脇のサイドワゴンには数えきれないくらいのクスリが
種類ごとにケースに収められている。
メモがあった。
クスリの飲み方と量が書いてあった。
手首に手術跡があった。
記憶は無い。
何の手術かもわからない。
わからないことだらけ。
ここはどこ?
(懐かしい感じがする。)
部屋の入り口はドアひとつ。
鍵がかかっている。
中からは開けられない仕組みのようだ。
ここはどこだ?
記憶がない。
インターホンが鳴る。
はい。
目覚めたのね。
体調はどう?
普通だと思う。
そう。
今からそちらに行きます。
クローゼットに洋服があるから適当に着替えておいて。
はい。
15分後に会いましょう。
はい。
着替えながらさっきの声が気になった。
どこかで聞いたことがあるような気がする。
誰だっけ?
インターホンが鳴った。
彼女だ。
開けてもいいかしら?
いいよ。
音も無くドアが開いた。
(さよなら。)
わたしはあなたの主治医の如月よ。
よろしくね。
主治医?
ぼくは何か病気なんですか?
それは言えない。
ただ医療費はかからないから心配しなくていいわ。
ある意味、これは研究なの。
なんの?
心の研究よ。
こころ?
そう、こころ。
こころ。
クスリの飲み方はわかったかしら?
きちんと指示通りに飲んで。
それと、明日、CTスキャンをします。
時間になったらこちらから連絡を入れるから
この服を着て待っていて。
何か質問はある?
ぼくはどうしてここにいるんですか?
それは答えられない。
じゃあぼくの名前を教えて?
あなたに名前はないわ。
まだね。
これから作るのよ。
新しいあなたを。
洗脳?
そんな野蛮なことはしないわ。
他に質問は?
ぼくはあなたと会うのは初めてですか?
どうかしら。
そうだとしても関係は無いわ。
まだ他に何かある?
あなたの名前は?
如月。
そうじゃなくて、下の名前。
今は教えない。
いつか教えてあげる。
じゃあ行くわね。
ちゃんとクスリ飲みなさいよ。
ドアが開いて彼女が出て行くと、急に温度が下がった気がした。
如月。
白い手。
クスリを飲む。
自分が散漫になっていく気がした。
ぼくは?