心罪/夢現 23

想像力が創り出す、ないしは、各人が持ち合わせているかもしれぬ、心の中の高貴なる美質を用いて、人類の称賛を博そうとものを書く連中がいる。わたしはといえば、この天賦の才を、残酷がもつ大いなる悦楽を描くために用立てるのだ。つかの間でも、人工でもない悦楽、まさに、人類とともに始まり、これとともに終わりを遂げる。「摂理」の秘めたる決定の中で、天賦の才が残酷と手を取り合うことはないことだろうか?あるいは、残酷であるがゆえに天賦の才を有すということはないことだろうか? 答えはわたしの言葉の中に見い出せよう、だが、わたしの話に耳を傾けるか否かはあなた次第、ご随意に。失敬、髪の毛が逆立ってしまったようだ、だが、何でもない、片手で楽に元に戻せたからな。歌をうたっている者は、自分の独唱曲が人に知られていないなどと望んだりしない、それどころか、その登場人物たちのもつ傲慢で邪悪な考えがあらゆる人間の内に潜んでいることに満足を見出すものなのだ。by Le Comte de Lautréamont(Les Chants de Maldoror/Chant 1)

目覚めた。
窓の無い部屋からは時間を知ることが出来ない。
ベッドから起き上がると
灯りが灯った。

青白くて丸く、天使の輪のような形。

ベッド脇のサイドワゴンには数えきれないくらいのクスリが
種類ごとにケースに収められている。

メモがあった。
クスリの飲み方と量が書いてあった。

手首に手術跡があった。
記憶は無い。
何の手術かもわからない。
わからないことだらけ。

ここはどこ?

(懐かしい感じがする。)

部屋の入り口はドアひとつ。
鍵がかかっている。
中からは開けられない仕組みのようだ。

ここはどこだ?
記憶がない。

インターホンが鳴る。

はい。

目覚めたのね。
体調はどう?

普通だと思う。

そう。
今からそちらに行きます。
クローゼットに洋服があるから適当に着替えておいて。

はい。

15分後に会いましょう。

はい。

着替えながらさっきの声が気になった。
どこかで聞いたことがあるような気がする。
誰だっけ?

インターホンが鳴った。
彼女だ。

開けてもいいかしら?

いいよ。

音も無くドアが開いた。

(さよなら。)

わたしはあなたの主治医の如月よ。
よろしくね。

主治医?
ぼくは何か病気なんですか?

それは言えない。
ただ医療費はかからないから心配しなくていいわ。
ある意味、これは研究なの。

なんの?

心の研究よ。

こころ?

そう、こころ。

こころ。

クスリの飲み方はわかったかしら?
きちんと指示通りに飲んで。

それと、明日、CTスキャンをします。
時間になったらこちらから連絡を入れるから
この服を着て待っていて。

何か質問はある?

ぼくはどうしてここにいるんですか?

それは答えられない。

じゃあぼくの名前を教えて?

あなたに名前はないわ。
まだね。
これから作るのよ。
新しいあなたを。

洗脳?

そんな野蛮なことはしないわ。
他に質問は?

ぼくはあなたと会うのは初めてですか?

どうかしら。
そうだとしても関係は無いわ。

まだ他に何かある?

あなたの名前は?

如月。

そうじゃなくて、下の名前。

今は教えない。
いつか教えてあげる。

じゃあ行くわね。
ちゃんとクスリ飲みなさいよ。

ドアが開いて彼女が出て行くと、急に温度が下がった気がした。

如月。
白い手。

クスリを飲む。
自分が散漫になっていく気がした。

ぼくは?

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心罪/夢現 22

老いたる大海原よ、君は自己同一性のシンボルだ、いつも、君は君自身なのだ。君は、根本から変わることは無い、どこかで波が荒れ狂っていても、どこかは完全に凪いでいる。君は人間どもとは違う、人間どもは、2匹のブルドッグが首に噛み付き合おうとするのを見ようと道に立ち止まるのに、葬列が通り過ぎるときには立ち止まろうともしない。朝は機嫌が良いのに、夕べには不機嫌になる。今日笑えば、明日は泣く。老いたる大海原よ、ぼくは君を讃えよう。

by Le Comte de Lautréamont(Les Chants de Maldoror/Chant 1)

泡沫があふれる海岸にぼくは立って
君からのメッセージを待っている。
消えていく泡ひとつ一つに君の顔が浮かぶ。

ねぇ。きみは誰なの?

ぼくは誰なの?

それさえも忘れてしまったんだ。
ぼくはここで何を待っているんだろう。

神様。ぼくは誰ですか?

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心罪/夢現 21

blog_2 - 047

あの天使の性質を持った想像上の人物たちの名前を思い出そうではないか。第二の歌を書いているあいだ、おれのペンが彼ら自身から出る光に照らされて輝きながら脳髄から引っぱり出したあの者たちを。彼らは生まれ出るや否やたちまち消えてしまうので、目が追いかけるのに苦労するあの火花のように、燃える紙の上で死んでしまう。

by Le Comte de Lautréamont(Les Chants de Maldoror/Chant 3)

鴉の言葉で天使が歌う。
おまえは偽物だと。
偽物のなにがいけない。
羽根があるお前らに何がわかる。
神に守られたおまえらに何がわかる。
俺は地上に落ちたおまえらだ。
神の力を持った俺を笑う権利はおまえらにはない。

ただただ消えていく俺の欠片を集めている少女を
おまえらは魔女と呼ぶのか。

おまえらが女神と崇めている少女が
俺を望む。
おまえらこそ哀れ。
永遠に生きて、永遠に苦しむ。
それがおまえらの成れの果て。

そうだろう? 違うか。

(俺の羽根は透明だからおまえらには見えないのさ。)

心罪/夢現 20

これより数行かけて明言しておきたいことがある、幼少の砌(みぎり)いかにマルドロールは善良であったか、この時、彼は幸せに暮らしていたのだ、以上かくのごとし。後になって、彼は自分が邪悪に生まれついていることに気がついた、なんと数奇なる宿命か! 長年の間、ぎりぎりまで自分の性根(しようね)を隠蔽してきたが、ついに、柄(がら)にもなく精神を緊張させてきたせいで、来る日も来る日も全身の血が頭にのぼるはめとなり、こんな暮らしをつづけることもかなわず、決然と悪の道に飛びこむに至った次第、なんと居心地のよいことか! いったい誰がこんなことを言いえたろう!彼は幼子(おさなご)のバラ色の横顔に口づけするたびに、剃刀(かみそり)でその頬を切り取ってしまえたらと望んだものである、しかもそのたびに、正義とやらが長々と懲罰(ちようばつ)の行軍を引き連れ、彼の行動に待ったをかけずにいたなら、彼はたび重ねてその挙に出たに違いない。彼は嘘を好まない、真実を吐露し、自分は残忍だと表明していた。人類よ、お聞きだろうか、彼は果敢にもこの震えるペンでふたたびこの思いを伝えているのである。てなわけで、意志よりも強い力とやらが存しており……畜生め!小石が重力の法則を逃れたいと望んだらどうだろう? 否である。しかり、悪が善と手を取り合おうにも取り合えはしない。先程来言っているのはこのことなんだ。

by Le Comte de Lautréamont(Les Chants de Maldoror/Chant 1)

冬。
起きろ。

四季様。

おいで。

四季様。私お役に立てませんでした。

いいから、おいで。

四季様。

おいで。
冬。

はい、四季様。

爪の先に冷たい欠片を刺したら
ぼくは夢に帰る。

 

blog_2 - 046

心罪/夢現 19

大海原の水すべてを使えば、この手についた血を落とせるのか?
いいや、それどころか、俺の手は、広大な海を血の色で染め、
海の緑を赤一色にするだろう。
by William Shakespeare(Macbeth)
綺麗は汚い」綺麗な言葉だ。
この世界にも本当に三人の魔女がいればよかったのに。
あの三人の醜悪さは芸術的でいながらこの世の理を圧倒的に超越している。
もし私がその世界にいたならマクベスのような弱さは見せなかった。
人でいながら人でなし。
私はこの世界が憎くて
それなのに憎い世界の最低のカスの中に埋もれてしまっている。
爪を揃えるのも面倒くさい。
明日さえ眠ることさえ面倒くさい。
もういい。
この世界での命はもういい。
違う世界へ行こう。
blog_2 - 045

心罪/夢現 18

天よ願わくば、読者が果敢にもその読むところのごとく非情に徹し、暗く毒満ちたこの頁(ページ)よりなる荒寥とした沼地(しょうち)をあまた横切る中、行く手を見失うことなく、険しく人跡未踏の道であろうとも、おのれの道を見いだされんことを、なんとなれば、厳格なる論理と少なくとも警戒心を保つだけの精神の緊張を、自らの解釈に持ち込むのでなければ、水が砂糖にしみ込むように、死に至るこの書の瘴気(しょうき)が、読者の精神を侵すであろう。
by Le Comte de Lautréamont(Les Chants de Maldoror/Chant 1)
あら、昨日とは違うお方。
はじめまして、
  刹。
え?
  殺という名前さ。
せつ様。
はじめまして、四季の代理の冬と申します。
 くすりしらないか?
くすりならケースに
 それは見たよ。そのクスリじゃなくて、ちっ
せつ様
おくすりをお飲みになってください。
少し気分が落ち着きますわ。
これを
 おまえだれだ?
私は四季の代理で冬と申します。
 冬?
はい。
 一年中冬か、相変わらず変な名前ばかり付けやがる。
甘いものはいかがですか。
 いらない。青い錠剤知らないか。
あ。それはさよなら様がトイレに流してしまいました。
 捨てた! 馬鹿か! 余計なことばかり。
俺はもう帰る。
あと、さよならに伝言。
次やったら、殺す、っていっとけ。
赤いの全部持ってくからな。
それは、四季様のお薬、なのですけど、、、
あら、いない、はぁ。
 blog_2 - 044

心罪/夢現 17

It sees by lifeless eyes.
(Already died a long time ago. )
It doesn’t see it by the temperature of light and collating the memory ..formation of the sight image.. in reality.
However, it images it.
It ..temperature.. doesn’t see it about the light doesn’t know.
The temperature doesn’t know is not visible.
Your light is light doesn’t know.
These eyes do not greet.
It only passes.
No matter already.
It cannot meet you any longer.
Because it doesn’t see it.
Your light is light doesn’t know.
The right eye torn up was divided in two and it threw it away.
Seeing is despair.

シキノメハ シンダ

blog_2 - 043

心罪/夢現 16

きみの第三楽章が流れてる。
記憶のレコードに刻まれた深い溝。
くり返し続く12月の旋律がきみのあかし。

きみの未来を早回しで見てきたよ。
きみはぼくの願った通り、幸せにみえた。
だから、不安も後悔も吐き気も全部ここに捨てて
まっすぐいけばいい。
なにもかも全部忘れてまっすぐいけばいい。

きみが忘れていくものはぼくが全部拾うから。

だから、バカみたいに幸せになればいいよ。
それがぼくが見てきたきみの未来だから。

闇としてぼくがきみに会うのはこれで最後。
ぼくを忘れたきみはぼくの中でずっと第三楽章を鳴らすんだ。
でも、それは一瞬。
ぼくはすぐに消えて四季が来る。
四季はきみを知らない。

さよなら、きみ。

覚えてる?
(暮れゆく滴は、闇。)

blog_2 - 042

心罪/夢現 15

見えない羽根が綺麗なきみ。
その羽根で世界を飛び廻るきみ。

ぼくの憧れのきみ。

ぼくは永遠に穢れた。
なのにきみの目に映った僕の背にはまだ羽根がある。
どうしてもきみはぼくを許さないという。
それがきみの願いならいいよ。

ぼくは黒い羽根で世界をもう一度壊す。

(ありがとう、きみ。)

blog_2 - 041

心罪/夢現 14

 二週間にわたって、爪を伸び放題にしておく必要がある。ああ! なんたる甘美か、荒々しくベッドから、まだ唇の上に何も生えていない子供をかっさらい、目を大きく見開きながら、優しく額に手をやり、美しい髪を後ろに撫でつけるふりをするのは! ついで不意に、少年が予想だにしない時に、その長い爪を柔らかな胸に突き立てる、死なない程度にだ、なんとなれば、死んでしまえば、その後はもうもがき苦しむ姿を見られなくなるからな。それから、血をすするんだ、傷口を舐めながら。この間、永遠が続く限り続くことになろうが、子供は泣き続ける。今言った方法で取り出した、まだ温かいままの血ほどうまいものはない、唯一の例外はその涙で、塩のような苦みがある。人よ、君は自分の血を味わってみたことがないのか、つい指を切ってしまった時などに? なんてうまいんだと思わなかったかね、だって、味なんかぜんぜんしないんだから。

by Le Comte de Lautréamont(Les Chants de Maldoror/Chant 1)

四季は酸素マスクをつけたまま眠っている。

腕から伸びる点滴の管は
初めから四季に生えていた何かの触覚みたいに見える。
3時間のあいだ、四季は何度も夢を見て
夢の中で何度も死んだ。

夢の中で四季は最後の歌を歌った。

(俺は夢じゃない。)

blog_2 - 040