骨と鎖。

いつか、
記憶(記録)や
感情が

スピードを上げて
加速して

言葉が
その速さに付いていけなくなったとき

僕は
僕の願ったすべてを忘れて

自由になれる。

引き換えに、
人の形を
失ったとしても

僕は
いい。

僕は
ずっと
忘れて
いたい。

美しいと
感じた

空も

きみも

形容することをやめて
本来の姿に
なって

すべてが

長いと感じた
時間

過ぎ去った
きみの後ろ姿

それら
すべてが
空想で

精密に描かれた冷たい気持ち
価値を奪われた世界

以下略、

後述された言葉を記す。

私が
私の
最大の理解者だと思っていたが
それは根拠のない思い上がりにすぎなかった。

私は
私のために
生きてきたと
思っていた。

違う。

私は
私が
生きているから
生きる理由を
考えるための
ただの装置。

生きる理由
すべての可能性を否定すること

相反するもの

プラスと
マイナス
二つの性質を
同じ殻に宿して

パラメータを
ゼロにする

こと

生と死の組み合わせの意味
順序

なぜ
生きて
死ぬ

なぜ
死んで
生き返らない

それは
死が

物質界の中で

最も
安定した
状態だから。

そして
生きる
こと

最も
不安定な状態であり

以下略。

私が
きみのために
何かをするためには
きみの願いが
必要であり

それは
きみが
何も願わなければ
(私は)何も出来ないことを意味し、
同時に
私自身の
行動を
制限する。

私は

笑っている
喜んでいる
きみを
見ていることが
気持ちいい。

私は
きみの
心の
鏡。

私は
きみの
願いを
映す。

そうして

生きる
理由(わけ)を
きみに
委ねるが

最終的に
私は
私の破滅衝動によって
きみをなくし

私をなくし

生きる
理由(わけ)をなくし

仕方なく
一つ残った選択肢として
死を
選ぶだろう。

blog_2 - 232

悲しみの標本。

離れていかない
忘れてほしくない
必要にされたい
どうせ生きていれば
誰かを傷つける
自分も誰かに傷つけられるように

だから僕は容赦しない

僕は求め続けるよ

きみも諦めて
誰かを傷つけることを
受け入れて
自分もつらい思いするんだから
お互いに愛し合って
お互いに傷つけあおうよ

(悲しみを悲しみを悲しみを・・・)

それがこの世界の常識
だから
生きていて

(悲しみを悲しみを悲しみを・・・)

blog_2 - 230

迷宮入りのドロシー。

博士、今日は特別な話しを聞かせてあげるよ。

僕の誕生日は今日。午後三時頃に生まれたらしい。
僕は4月1日が誕生日であることが昔から好きだった。
それは、4月1日がエイプリルフールだから。
嘘をついてもいい日。
4月1日に生まれた僕の存在自体を嘘にしてくれそうな気がする。
僕は僕が生まれていなければよかったと思ってる。
そしてそれは実際そうだろうと思う。
だから、誕生日がエイプリルフールなことがなんとなく嬉しいんだ。
生まれたことが嘘のような気がして。
けど、その思いも当日には無様に引き裂かれる。
4月1日がエイプリルフールだろうとしても
僕が生まれたことは消えない。
またひとつ年をとる。
悔しいと思うすぐその瞬間に思い知らされる。
まだ生きていると。
4月に入っても風は冷たい。
それはそうだ、昨日までまだ3月だったんだから。
僕は死にたい。
出来ることならすぐにでも死にたい。
何もしなくてもいつか死ぬことは知ってる。
そんなことじゃない。
違う。
死にたいじゃない。
存在を消したいんだ。
この世界に居なかったことにしたい。
はあ。

初めから存在しなかったと、そういうことにはできないの、博士。
記憶置換だよ。
出来ないの。
そう、役立たず。
知ってる?
 僕 ここに来る前はアートディレクターしてたんだ。
本にも載ったんだよ。
有名とかじゃないけど作品がね、ADC年鑑ていう本に載ったんだ。
他にもカレンダーだけ集めた作品集とかにね、載ったんだ。
嬉しかったよ。
もっと、上に行けると思ったんだ。
でもね、博士、行けなかったよ。
限界だったみたい。
エージェンシーにさあ、通院してることがばれて
担当者に呼ばれてさ。
主治医と話したって、すぐに休養させないと危険だって言われたって。
ねえ、医者ってさあ、患者のそういうのぺらぺらしゃべっていいわけ?
結局それで3日後にもう会社来なくていいって、休みなさいって言われたんだよ。
そのまま有給消化して、エージェンシーには一度私物を取りに行っただけ。
直属の部下にだけ理由を説明して、辞めること伝えて、それきり。
送別会もなかったよ。
自分の大切なもの全部奪われた気がしたよ。
辞めてすぐの頃は、毎日買い物して時間つぶししてたよ。
将来を考えることが怖くてさ。
百貨店の店員さんてさ、すごく親切だしマメじゃない。
だからさ、なんか癒されるんだよね。
特別室で試着出来るんだよ。
どのフロアからも好きな服持ってきてくれるの。
飲み物もただで飲めるし。
煙草だけは吸えなかったけど。
あれは楽しかったな。
西武行って、VIABUS行って、PARCO行って、
そのままタクシーで伊勢丹に行ったりして。
ね、楽しそうでしょ。
ほんと、楽しいんだよ。
でもね、仕事にはすぐ復帰するつもりだったんだ。
最初の頃はね。
でも、実際にはうまくいかなかった。
症状がどんんどん悪化しててさ。
症状って言っても昨日の記憶がなかったりとかそんなもん。
生活には問題ないよ。
大事なことはメモしてたしね。
でも、エージェンシーの担当者にぺらぺら喋ったあの医者が
症状が良くないって、回復してないって、あんたのところに紹介状を書いてさ。
それで、こうして博士の所に来たってわけ。
でもはっきり言って、博士でも治せないよね、僕のこと。
博士言ったよね、僕はゆるやかに症状が悪化してるって。
その理由は僕自身にあるって。
僕さあ、知ってるよその理由、というか原因ね。
僕はね、博士、元に戻りたい。
それだけなんだよ。
でも、戻れない。
わかってるんだよ。
だから、もう消えたいんだよ。
自分に価値があると思えたあの時から
僕の中の時間は止まってるんだよ。
煙草の煙って紫だよね。
知ってる博士?
光に照らしてみるとうっすら紫色してるんだよ。
本当だよ。
煙草吸っていい?
ありがと、ここって普段禁煙だよね。
煙草って苦い。
でも、好きだな。珈琲も苦い方が好きだし。
関係ないね。
要するにさ、迷子になった子供が家に帰れなくなってるみたいなもんだよ。
それにその家なんてもうとっくになくなってるし。
迷宮入りのドロシー状態だよ。
どうすればいい、博士?
俺はどうすればいいのかな?

あんた俺に何度殺された?

くすり。
今日の分ちょうだい。
帰る。
またね、博士。

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サリンジャーは笑わない。

まだ起きて間もなく暗くなった部屋に灯りをつけると
頭の中でぼんやりとしていた暗い影が笑った。
近づいてみるとその顔は人間のそれより
変に縦に歪んでいて両目は異常にくっつき
鼻は押しつぶされたようにひしゃげていて
何か邪悪なものの塊に見えた。
その影は僕が意識を集中すればいつでもこっちを向いた。
その影は見るたびに恐ろしく僕はいつも仮面をかぶせていたが
もう僕の意思で仮面をつけることは出来なくなっていた。
その顔がこっちを向いて笑うんだ。
声はしない。
けれど笑っている。
邪悪な笑いだ。
どんな悪行も行ってきたものだけが出来る
何もかもを遮蔽する笑い。
特に意識しなくても見たものを怯えさせる笑い。
僕にはわかる。
こいつは特に邪悪な匂いがする。
僕は怯える。
僕の頭の中で暗がりの中に浮かび上がるそれは
何年も前に捨てたはずのソファに深く座り
こっちを向いて笑っている。
これが僕の中の笑い男。
そこには下僕も従えずたったひとりで
仮面をはずした笑い男が
僕の頭の中でこっちを向いて笑っている。
僕はそれにもう気づかないふりは出来ない。
僕は笑い男を殺さなければいけない。
それが僕に残された最後の使命だからだ。
僕は頭の中で拳銃に弾を込める。
だけど今は撃てない。
まだやり残したことがある。
もう少し待っていてよ。
僕が笑い男を殺すとき、死ぬのは笑い男だけじゃない。
僕も死ぬんだ。
だから、もう少しだけ生かしてやる。
笑い男はソファの上で足を組み替えると
ひしゃげた右目を少し上げて僕をバカにするように
ふっと笑った。
僕は弾を込めた拳銃を笑い男に向けて照準を合わせると
声に出してバーンバーンバーンと言った。
笑い男はただ笑っていた。
それが今までに無い最高に邪悪な笑い方だったから
僕は本当に引き金を引きそうになった。
笑い男は笑うだけで何も言わないけれど
僕が撃てないことを知っている。
そういう笑い方だった。
僕は泣きそうになりながら銃口をこめかみにあてる。
そしていつか撃つ。
なぜって。
そうすることが僕の最後の使命だから。

 

blog_2 - 168

闇より濃い闇。

何かが焦げているような匂いがする。
意識が乱れて集中出来なくなって僕は落ちる。
代わりに僕がお相手します。
僕の名前は刹。せつ、と読みます。
夜が12時を越えると深くなっていく闇に
何か小さくて細かな粒子のようなものがさらに降りてきて
前よりずっと濃い闇ができあがる。
僕はその時間が大好きだ。
ちょうどいまくらいの時間。

 

blog_2 - 167

遺書(宵闇編)

僕が死ぬときは
きっと突然だろうけど
誰も知らないはずだから
もう聞こえない僕の声を忘れてしまって
僕の足跡を追うようにいろんなところ探さないで
そこはもう捨ててしまった場所だから
跡が残っていても
もう新しいことは何も書けないから
ずっと待つようなことはしないで
僕がきみへ残したいくつかの標しは
きみを泣かせるためのものじゃなくて
きみを慰めるためのものだから。
いつかきみが僕を忘れられずに僕の痕跡を追って
たどり着いた場所にきみの知らない名前があっても
けして悲しまないで。
それはいくつかにわけた僕からのメッセージのひとつ、
きみに宛てたメッセージも必ずあるから
どうか悲しみにくれないで。
僕がここで生きた証にこれを残したとしたら
きみはいつか僕が死んだときに
これを手がかりにいくつかの手法で
僕からのメッセージ受け取ってよ。
僕が死んだらきみは泣くかもしれないけど
泣き止んだ後は
もう僕を思い出さなくていいよ。
きみの分まで僕が思い出は持っていくから。
きみが白い手で見つけ出したメッセージにもし
きみを泣かせるようなことがあったらごめん。
でもきみといた時間は特別だったと伝えたかっただけなんだよ。
きみがこれから幸せになるために
きみは僕なしで努力しなければいけないけど
そんなに難しいことではないよ。
僕を忘れてしまえさせばいい。
僕はずっと忘れないから何も心配はいらない。
ふたりの記憶は僕が持っていくから
僕がたとえばだけど
突然消えたりしたらそのときは
ちょっとだけ悲しんでちょっとだけ怒ってほしい。
もっときみと一緒にいられなかったということだけが
僕は寂しい。

きみがこの遺書に返信できるわけはないけど
僕はきみが何を思うかを大体わかっているからいいよ。
きみのために
きみのためだけに
僕は生きた。
それだけを伝える。
最後にそれすら裏切るけれど。

遺書

 

blog_2 - 146

美しい世界の終わり。

何も変わらない世界が
何も変われない僕と争っても
負けるのはいつも僕で、
そうしていくうちに明るくなっていく空に
憎悪しながら
僕の死を待っている死神でさえ
僕に優しいことが
特別にあたまにくるんだ。
だからどうってことないときみはいつも冷静だけど
本心ではおなじくらい憎んでいるはずだ。
世界から置き去りにされて
世界のはてを作って僕らに残されている道は
緩やかな死。
そして鮮やかな死。
どちらにしてもロマンスは始まった。

この世の最後に見ていよう。
この楽しそうで醜悪で
切なく美しい世界の終わりを。

 

blog_2 - 145

贖罪。

もし神様がいてきみのところにやってきて
僕といると不幸になるよと言われたらきみはどうする?

もし神様がいて僕のところにやってきて
きみといるときみが不幸になるよと言われたら?

(僕はきみに何も告げずに
この世界からいなくなると思う。)