灰と幻想のユアン。

ああ、純潔よ、純潔よ。
俺に純潔の夢を与えたものはこの目覚めの時だ。—精神を通して、人は『神』に至る。
想えば身を裂かれるような不幸。
(地獄の季節:不思議/ランボオ)

4 SEP 2106

僕は自分の意思を無意識に明け渡したかのように
何も思い浮かべることもなく意識せず
ただ無意味に午後のクラスを聞き流しながら窓の外を見ていた。

(そこでは雨が降っていた。そこには霧もかかっていた。)

少し離れた場所に見えるはずの中等部の校舎は
この雨と霧のせいで薄暗い靄がかかり建物の輪郭はぼんやりとしか見えなかった。
時々靄の隙間から薄黄色く淡い光が漏れて見えた。
淡い光は等間隔に並んでいてそれが沢山の窓から漏れる光なのだとわかる。
光が強弱をつけて見えるのは靄のせいだ。

突然僕は意識をはっきり取り戻した。
そして辺りを見渡せば見えるのは灰と幻想の世界。
授業中だったはずなのに、
そこにいたはずの先生もクラスメイトもクラスルームも何もかもが消えた。
そして今僕は行ったことも見たこともない森の中に立っている。
森の中は濃い霧に包まれていて5メートル先も見えない。
そして冷気を伴って頬を濡らす大気や鬱蒼と茂る草が腕に直接触れることが
とても気持ち悪くて仕方なかった。
これは絶対に夢だと思っても、
リアリティの感度がここは紛れもない現実だと僕に告げる。
実際、直接肌に感じる大気の冷たさや
辺りの樹々に触れた肌触りはリアルそのものだった。
ここは現実の世界の何処かで
原因はわからないけど授業中だったクラスが突然消えて
僕だけがここに飛ばされた。
でも本当はどうでもよかった。
クラスにいてもここにいてもユアンはもうどこにもいないんだ。
僕は諦めて露で湿った草の中に仰向けになって寝転んだ。
見えたものはさっきと何も変わらない。
真っ白で灰色な深くて暗い霧の群れ。
僕はふとオピエイドのパッチを胸ポケットに隠していたことを思い出すと
ブレザーのポケットの中から「Heaven」と書かれたシートを取り出し、
寝転んだまま左手首を裏返してオピエイドのパッチを一番よく見える静脈の上に貼り付けた。
そしてもう一度両手を広げ寝転んで目を閉じた。
沢山の光と色鮮やかな蝶々の群れが漆黒の空に光を放ちながら舞い上がり、
真っ暗な空からは数え切れないほどの透明な槍が降ってきて
僕の体のあらゆる全身を貫くと絶頂が幸福を溢れさせた。

ユアンが死んでから3ヶ月が過ぎた。
僕は今もまだユアンの死を実感することができないままだ。
ユアンの自殺を見届けたのに
何度も何度も繰り返し思い出せるのに
ユアンは今でもどこかにいるんじゃないかと思うんだ。

目を閉じたままオピエイドの血中濃度が最高に達している頃、
僕の意識の中では幻想の中の天国で噴水広場にあるベンチに座って
ユアンと二人でいつものように何気ないことをいつまでもずっと話していた。
大抵はユアンが一方的に話しまくって僕は笑い転げている。
それは当たり前の風景で日常的にあったことなんだ。
今はもうユアンと話すことはできないけど。
オピエイドのパッチさえあればいつでもユアンにまた会える。
そうだよね、ユアン。

窓の外はさっきよりさらに暗くなって雨も強くなっていた。
悪趣味な幻覚だ。本当に死にたくなる。

気がつくと僕は涙に溢れ泣きながら、
何度も何度も「ユアン」「ユアン」と小さな声で繰り返し呼び続けた。

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投稿者:

暁、闇。 akatsukiyami

アンビエントサウンド、ヘヴィメタル、エレクトロニカ、ノイズなどに教会音楽などを組み合わせて作られる彼独特のサウンドは、ダークで重いマシンビート、繊細で妖艶な旋律、攻撃的なノイズで狂気と安寧、相反する二面性を表現する。オルタナティブ、ヘヴィメタル、ゴシック、インダストリアル、テクノ、エレクトロニカ、クラシック、様々な様式で構築されるコラージュスタイルのサウンドは、彼が考える架空の世界や架空の国の物語からインスパイアされた世界観からイメージされるコンセプトで作られる。彼にとって楽曲を作ることはその世界観から生まれる物語を表現すること。箱庭遊びのように。

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