私は目に映る映像を頼りに上手く人を避けながら誰の注意も引かないように慎重に歩いている。
何かがおかしい。
私は通り過ぎる人に違和感を感じ、よく見ると人形が歩いている。
どうして人形なのかは気にならなかった。
私は再び歩き始める。
次の瞬間、私は右と左に別れ、左は記憶の中へそっと降りていく。
歩道を歩く右は相変わらず注意深く慎重に歩いている。
頭の斜め上から「私は目的地を知らない。」と三番目の私が言う。
後ろから大きなクラクションが鳴って私は振り返る。
大型トレーラーのバンパーがホオジロザメのように大きく口を開けて前を走る車を次々と食い散らかしていく。
大量の血が飛び散って私の頬についた。
トレーラーはどんどん巨大になっていき両側のガードレールを押しつぶして挟まってやっと止まった。
頬についた血を舐めるとちゃんとした血の味がした。
「人形なのに。」と私がつぶやく。
私はガソリンと血の焦げた匂いのする車道へ向きを変え歩く。
トレーラーのドアステップに足をかけて運転席を覗くとそこには四番目の私がいた。
私が見ているのは映像だから現実じゃない。
だから、私は何が目の前で起きても驚かないし、
どんな残酷なことだってする。
だって、全部、夢と同じなんだから。
先生は私に嘘ばかり言う。
警察も私に罪をなすりつける。
記憶にあるから話してるだけなのに、夢で見た話をしただけなのに。
だから私は静かに生きることにしたの。
私のしている悪いことはクスリだけ。
手に提げたバッグの中から注射器を出してクスリをつめた。
誰もいなくなった歩道にしゃがみこんで左足首に針を刺してクスリを流し込む。
そして前方から来る幾つもの光のひとつひとつが私の目の前で光の矢に変わり身体中を快感で突き刺した。
立ち上がって空を見上げるとアゲハチョウの群れが天の川を昇っていくのが見える。
青や赤や紫、黄色と色を変えながら大量のアゲハチョウが空を埋め尽くす。
振り返ると五番目の私がいて私に本当の名前を告げた。
目の前に猫がいた。
猫は私に抱いてほしいと鳴きながら私の足にじゃれてくる。
私は猫を抱き上げ私の猫にした。
此処にはもう私と猫だけしかいない。
