このドアが開いたら
何も知らなかった私にはもう戻れないと知っている。
それでも、私にはこのドアの向こうへ行く選択肢しかないのだ。
充分な時間過去を回想して楽しんだあと
私は諦めてドアを潜った。
ドアが開くと
ホームに降りて改札の出口へ向かう。
エスカレーターを下りながら
見覚えのあるお店やコーヒーの匂い。
改札のすぐ向こうの白い壁
かつてそこにいた人
冬の残雪が至る所に在って
まだここは冬なのだと思うと、
真夜中、雪の棺の中で
じっと目を閉じたまま、ただ意識が消えるのを待ち続けたきみがもう透明だ。
消えていくきみを懐かしんで私は泣く。
(新しいクスリを出して笑う。)
東京ではもう散ってしまっている桜も、
ここでは、まだ芽吹いてさえいない。
いつかお花見を一緒にしてみたいな、と思った。
ここから見る桜は何も遮るものもなく
特別席から見ているようなんだよ。
いつか、いつかね。
(きみがいないから、きっと無理だけど。)
桜は毎年咲いて、毎年散って、
生と死を繰り返して、
わたしたちを笑っている。
私も咲いて、散ってしまおうか。
風に吹かれて心臓が止まる。
それも悪くない。
そう思った。
