ヴァージンスーサイド。

野に咲く春の花も今はもう
お前ほど私をひきつけはしない。
天使よ、お前のいる所にこそ愛と情はあるものを。
お前のいるところにこそ自然もあるものを。

Johann Wolfgang von Goethe / An Bleinden

佐内がソファに座っている僕に後ろからボールペンを差し出して「持って」と言った。
僕はボールペンを握った。
「これがナイフね」と佐内は言って僕の後ろからボールペンを握っている手を上から優しくさわって掴んだ。
「ナイフの刃は上向きで首筋に押し付ける。」
僕の首にボールペンのナイフが押し当てられる。
佐内に後ろから抱きしめられる感じになって、佐内の香水が香って、
死の講義を受けている自分がどうしてこんなことでドキドキするんだろうと少しおかしくて多分笑った。
そんなことを気付くはずもない佐内は講義を続けて、
「そして、押し付けたナイフをさらに深く、動脈の鼓動がはっきりとわかるくらい強く押し付けたら、一気に引くの。こう。」と
言って僕の手を強く握りしめてボールペンのナイフで切り裂いた。
そのときの感覚がボールペンだということを忘れるくらい余りにもリアルだったので僕はこれがこのまま、
ボールペンじゃなくナイフだったら、佐内に手を握られてその手に操られて切り裂いてもらえるのだったら
本当に素敵だろうなと思った。
佐内は僕の手を離して煙草に火をつけながら「ね、わかった。簡単でしょ。」と言って煙を吐いた。
僕はボールペンをもう一度自分の首筋にあてて強く押し付け動脈の鼓動に押し付けて一気に引いてみた。
「うん、大丈夫。これならもうやれる。ありがとう佐内。」と僕は言うと、 少し置いてから
「ねえ、動脈切ったら即死するのかな、、やっぱり痛いの、、かな、、。」としどろもどろに佐内に聞いた。
「そうね、、即死ではないね。これはね私の推測と実際に試して未遂に終わった人とかの記事からの話になるんだけど、、
基本的には最初は痛い、でもね、5秒で体の4分の一の血液が吹き出して首から下の感覚は全て麻痺するはず。そして、人によるけど大抵5分間くらいは脳内の神経に酸素が残ってるから若干なりとも意識があるはず、でも朦朧としていて集中はできないはずだから夢を見るような感じだと思う。だから、みんなバスタブでやる人が多いよね。お風呂に入りながらリラックスして最後にお別れをして首筋を切り裂くの。真っ赤だよ。赤い世界、時間が急速に流れ出して、血液が半分もなくなったら視界から色が消える。モノクロの世界。最後に見る夢はモノクロなんだって。そして夢になって。閉じておしまい。そんな感じだよ。」
「怖くなった?」と佐内が言った。
僕は「いや、その終わり方優しくていいかも。バスルームが血まみれで驚くだろうけど、両親は。」と答えた。
「そうよかった。じゃあ、今度はこっちの番だね。」と佐内が言った。
その思いがけない返事に僕は驚いて「え。」と間抜けな返事をしてしまった。
「キミキミー、世の中ギブアンドテイクなんだよー。そして、私はもう君に既に情報を渡したのだから、今度は私が貰う番なんだよー。」と佐内は言って上機嫌な笑顔で笑った。
佐内が報酬を要求してくるとは思っていなかったので焦って冷や汗が出てきたけれど
「佐内、悪いけど僕お金はあまり持ってないよ。ただで教えてもらえると思ってたから。ごめん。」と僕は佐内に言った。
佐内はそれを聞いて同じ笑顔で「大丈夫だよー。お金じゃないもん。私の欲しいもの。へへへー。」と言った。
それで僕は「じゃあ、佐内の報酬って何なの。」と聞いた。
すると佐内と僕は隣同士で見つめ合う形になった。
ほんの数秒が永遠に感じる。
佐内の瞳は揺れている。
もっとよく見ると瞳の中に僕が見えた。
佐内の瞬きすら見える。
こんな近くで女の子の目を見るのは初めてだった。
思えば佐内とこうして知り合う前までは
女の子とこんなに近づいたことすらなかったんだ僕は。
そして、佐内はとても綺麗な目のままで、僕に向けてこんな絶望的な言葉を言ったのだ。

「私の為だけに生きなさい。私のことを早く思い出して。何度も繰り返した、前世からの約束を果たして。」

公式ブログ用フォト - 2 / 3

投稿者:

暁、闇。 akatsukiyami

アンビエントサウンド、ヘヴィメタル、エレクトロニカ、ノイズなどに教会音楽などを組み合わせて作られる彼独特のサウンドは、ダークで重いマシンビート、繊細で妖艶な旋律、攻撃的なノイズで狂気と安寧、相反する二面性を表現する。オルタナティブ、ヘヴィメタル、ゴシック、インダストリアル、テクノ、エレクトロニカ、クラシック、様々な様式で構築されるコラージュスタイルのサウンドは、彼が考える架空の世界や架空の国の物語からインスパイアされた世界観からイメージされるコンセプトで作られる。彼にとって楽曲を作ることはその世界観から生まれる物語を表現すること。箱庭遊びのように。

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