ごらん 運河に
眠るあの船
放浪の心を持って生まれた船たちを。
おまえのどんな望みでも
かなえるために
あの船は世界の涯からここへ来る。
ー沈む日が
野を染める、
運河を染める、町全体を染めあげる、
紫色と金色に。
世界は眠る。
いちめんの 熱い光の中で。
Les Fleurs du mal LIII L’INVITATION AU VOYAGE / Charles Baudelaire
空は青色をすべて雲に奪われ2月にしては陰気で暗く、艶のない風景だった。
ん、、、、、、、違う、陰気で暗くて、嫌な予感のする風景だった。・・・ん、これも違う、
陰気で暗くて、乱れていた。
・・・んーこれも違う、、、・・・。
(網膜に張り付いた何億という数の光の点が瞬間に現れては消え、現れては消え、絶え間なく、僕の答えを待っていた。)
バスタブに浸かり灰皿を浮かべて虚ろは煙草を吸いながら今日会う予定のさよならのことを考えていた。
300年振りの再会に彼女は僕だと気付いてくれるだろうか。
本当の自分が自分ではないことに驚かない人はいない。
それが何千年も続くリインカーネーションなら尚更不安になる。
(神経質に何度も細かく煙草の灰を落とす癖、彼、緊張しているわ。)
バスルームは水蒸気と煙草の煙で深い霧に覆われたように彼の表情を隠した。
黒いスーツに着替えて、襟を直しながら鏡の前で、現在の彼女はまだ12歳、僕は16歳。と声に出していった。
僕は予定の時間を大幅に遅れて外に出た。
空は阿片の巣窟のように何層もの煙が重なりあうみたいに濁った雲が一面に張り出して、、、
・・・・・・・僕の気持ちを奪おうと明らかに淫に振る舞った。
性格の悪い神様が僕に意地悪をしている。
僕は小さなブルーのスニッファーに入ったコカインを吸って、さよならのことを想った。
今はまだ何も知らない少女のさよならはこの輪廻でもう時期死を迎える。
死ぬ前に会って伝えたい。
彼女は1世紀前に僕が今からしようしていることと全く同じことをしてくれたのだから。
夢じゃない。
妄想でもない。
これは現実。
私とあなたの永遠に続くリインカーネーション。
さっき、さよならが死んだ。
虚ろに会うことは叶わず、何も知らず死んだ。
病室のドアのネームプレートには火憐という名前があった。
虚ろは帰り道、青い薔薇を12本買って帰った。
次の輪廻まであと2世紀、虚ろは18歳で死んだ。