ヘヴン。

太陽が喪のヴェールに顔をかくした。それと同じに、
おお わがいのちの月よ! すっぽりと闇に包まれなさい。
眠るもよし 煙草を喫むもよし。じっと黙って、暗い顔で、
「倦怠」の深淵にそっくり沈みこんでいなさい。

Les Fleurs du mal XXXVII LE POSSÈDÈ / Charles Baudelaire

「HAPPY BIRTHDAY!」
午前0時を過ぎるとさよならは必ず声に出して言った。
世界中のどこかで毎日がきっと誰かの誕生日だよ。
だから、誕生日おめでとう。素敵な年になりますように。
知らない誰かへ。
私には誕生日はないから、羨ましいな。
私の時間はいつ始まったのか、それは誰にもわからない。
壊れていた時計の針は気まぐれに動き出した。
そして、なんの前触れもなく、私は私という存在を知った。
だから、私には誕生日がない。
私が私を知ったとき、私は既に産まれたあとだったから。

バニラの香りがする紅茶を飲みながら、
私は今日が誕生日な誰かさんはどこの国のどんな人なんだろうと考えていた。
きっと何人もいるんだろうな。
世界中だもん。
100人くらいいるかも。
毎日誰かが誕生日を祝ってもらう。
ケーキを食べたり、プレゼントをもらったりするのかなあ。などと考えていたら、
急に眠気が襲ってきて、どうしようもなくてベッドに倒れこんだ。
私は目を閉じてすぐに意識をなくし、3秒後に目を開けると虚ろだった。

大きな液晶ディスプレイに映るブラウザを見つめながら、今日4本目の煙草に火をつけると、
虚ろは右手だけで素早くキーボードをタイピングしていく。
コツコツと小さな音がマシンガンの連射のようなスピードで鳴るたびにブラウザには次々とウェブサイトが並んでいった。
そして液晶ディスプレイ全体が数百のタブで埋められてタブの幅が鉛筆の幅ほどしかなくなると、
液晶ディスプレイが上下5段のタブに変化した。
虚ろは左手に持っていた煙草を唇に挟んで両手でタイピングを始める。
2分もしないうちに上下5段の全面が約2万ほどの小さなスクエアに変わり全てのタブが埋め尽くされていった。
何億というワードの群れにブラウザが悲鳴をあげるように動きを鈍くすると
虚ろは小さく「ちっ」と舌打ちをして、ブラウザのAI検索モードをオフにして
唇に挟んだ煙草を左手でつかんで灰皿にねじ捨てると
その脇に転がっている口紅を模した光学メモリを液晶ディスプレイのサイドスロットに差した。
そのあと虚ろは頭まである背もたれに深く沈みこんで新しい煙草に火をつけてゆっくり煙を吐きながら
キーボードのenterキーを右手の人差し指で軽く叩くと小さな声で「終了」と言った。
そして、目を閉じて眠り、7時間後に目覚めるとまた私だった。
一番最初に見えたのは目の前にある液晶ディスプレイの真っ白なスクリーン。
スクリーンの真ん中に黒い大きな文字で「ヘヴン」と表示されていて、その下に「はじめますか」と書かれたボタンがあった。

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投稿者:

暁、闇。 akatsukiyami

アンビエントサウンド、ヘヴィメタル、エレクトロニカ、ノイズなどに教会音楽などを組み合わせて作られる彼独特のサウンドは、ダークで重いマシンビート、繊細で妖艶な旋律、攻撃的なノイズで狂気と安寧、相反する二面性を表現する。オルタナティブ、ヘヴィメタル、ゴシック、インダストリアル、テクノ、エレクトロニカ、クラシック、様々な様式で構築されるコラージュスタイルのサウンドは、彼が考える架空の世界や架空の国の物語からインスパイアされた世界観からイメージされるコンセプトで作られる。彼にとって楽曲を作ることはその世界観から生まれる物語を表現すること。箱庭遊びのように。

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