春の木漏れ日とさよならの私。

滴の滴りのようにゆっくりと太陽が差し始めて
あなたの頬に格子の影を作り
私の膝を温める。
あなたの見る夢を想像しながら
眩しい光の方へ目をやると朧気な幻が浮かび上がってきて
そのうちに輪郭を帯びて
忘れていた名前のあなたになった。
その目に私は映っていないのか、
私が適当に選んだ名前を呼んでも明後日の方を向いたまま動かない。
それは多分どんなにはっきりとして見えても
幻なのだから当たり前のことだと今は思うけれど
その時の私はその姿があまりに鮮明なので
当たり前のことを忘れていて
遠くを見る名前を忘れたあなたの肩に手をかけようとして
手が宙をすり抜けた拍子に小さくよろめく。
その動きでひざの上のあなたも揺れて顔に水滴が落ちた。
私はあなたが目を開かないことを確認して
もう一度光の方へ目をやった。
もう太陽は上の方に行って眩しさも無く
忘れていた名前のあなたも消えていた。
本当は見えていたのかさえもわからないのに
消えていたことが少し寂しい。
私には今このあなたがいるのに名前を忘れていたあなたが
とても懐かしくて目にシャッターがあれば
写真を撮っていたのにとわけもないことを思った。
もし本当に目にカメラがあって
写真が撮れるならきっと幻でも写すことが出来たはずだから
心の中の写真をどうやってプリントアウト出来るのかとまで考えて止めた。
そのくらい驚いた出来事で
心がひんやりして冷たい気持ちになった。
ああ、懐かしいな。
もしもう一度あなたに逢えたら、と思うことだけで
心がさっきより一層冷たくなった。
私はそんな感傷に浸りながら
少し重く感じるあなたの頬に手を触れて温かいと思う。
私は我が儘だから名前を忘れていたあなたさえも
もう一度手で触れたいと思うのだろう。
手を触れて多分涙を流して
あなたの名前を思い出すまで見つめている。
それでもきっと名前を思い出すことはないと知っているから
通り過ぎたあなたに会うことも叶わずに
私は動きを止めてしまってそのうち死ぬんだ。
私は執着心が強いから、名前を忘れていても
実際に私の中に存在した人の幻に出逢うだけで泣けるのだと
改めて知るだけの怠惰な木漏れ日だった。

blog_5 - 58

投稿者:

暁、闇。 akatsukiyami

アンビエントサウンド、ヘヴィメタル、エレクトロニカ、ノイズなどに教会音楽などを組み合わせて作られる彼独特のサウンドは、ダークで重いマシンビート、繊細で妖艶な旋律、攻撃的なノイズで狂気と安寧、相反する二面性を表現する。オルタナティブ、ヘヴィメタル、ゴシック、インダストリアル、テクノ、エレクトロニカ、クラシック、様々な様式で構築されるコラージュスタイルのサウンドは、彼が考える架空の世界や架空の国の物語からインスパイアされた世界観からイメージされるコンセプトで作られる。彼にとって楽曲を作ることはその世界観から生まれる物語を表現すること。箱庭遊びのように。

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