Apr 27 2007 10:26:34
ある日 ぼくは ギザギザの刃を持ったサカナだった。
何回も切り刻んだし、
何度も切り裂いた。
嘘でもなく、夢でもなく、
超現実的に切り裂いた
(あたり一面が黒くて冷たい深海だ
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今までに切り裂いた数、今までに切り刻んだ数。
弱い魂をひとつひとつ並べて
数秒、眺めた後、
やっぱり、切り裂いた。
なんでも切れる。
概念も抽象も
物質以外のものも、切り裂いた。
世界中、切り裂いても
切り裂くものは、そこにあった。
そして、それらは大抵、脆かった。
暖かい気配を感じたら
ぼくは ただ それを切り裂けば良かった。
それに気付いたら 振り向いて、
(こんにちは はじめまして
一瞬で 切り裂いた。
とても簡単だったし、
幸せだった。
あるとき、気まぐれに
一度だけ 切り裂くのを やめた。
振り向くと
深い森のような 真っ暗な 悲しい目をしていて
傘もささずに雨に濡れている少女がいた。
それがまだ
名前をつける前の
さよならだった。
刃は さよならの 1mm前で ひかる。
さよならは ぼくが欲しいと言った。
それから、1年と8ヵ月を一緒に過ごした。
その間、何度も切り裂くことを迷った。
いつも途中でためらった。
(水温が上がってきている
(体温があがってしまう
さよならはいつも笑う。
深い森の目で 笑いながら、言う。
切り裂いてもいいよ。
ぼくは 何度も、何度も、切り裂こうとしたけれど、
途中でやめた。
(強い風の吹く夜に思い出すだろうか?
(あるいは冷たい雨の夜に
7カ月が過ぎた頃、
さよならを切り裂くことを諦めた。
かわりに さよならを切り裂こうとするものを
切り裂いた。
どんな小さなかけらも
切り刻んだ。
さよならはそれ以来、笑うことはなかった。
そして ぼくを憎んだ。
終わらない闇のような 濃紺の密集した
どこまでも 続く 憎しみのための憎しみ。
(10分後に)
さよならは
ぼくの方を振り返り、微笑んだ。
そして、ぼくを切り裂いた。
切り裂かれながら
僕はさよならに
さよなら と言った。
さよならは ぼくに 愛してると言った。
永遠に 愛していると言った。
さらに、
永遠に 憎むとも言った。
(30時間後
僕は深海をすてて 陸にあがった。
ギザギザで作ったリングは
小指にはめた。
(切り裂いた証しに
(切り裂かれた証しに
※さよならがまだ 不幸だった頃のはなし。