Jul 25 2005 06:53:11
42573619730401。
僕は物心がついたときから
いままでずっと数を数え続けてきたんだ。と
ミクニは言った。
その言葉を聞いたあとには
ただの数字がとても恐ろしくかんじられて
まるで呪文のように僕の頭の中に響いたし
跳ね返っても また跳ね返り
その反射はいつまでたっても止まなかった。
42573619730401頭。
僕が羊を殺した数だ。
42573619730401時間。
僕の失った時間だ。
例えて言うなら
ぼくの感じた恐さはそういったものに近かった。
ミクニは片目が水晶で出来ていて
水晶をのぞくと海が見えた。
ミクニに どうして数を数えるの?と聞くと
ミクニはどんどん増えていくことが楽しいから。と言った。
増えてどうなるの?と聞くと
増えていくだけだ。と言ったあとに
ダメ?と聞き返してきたけど
ぼくはうまく答えが思い浮かばなくて
沈黙してしまった。
ミクニは少し悲しそうな顔をした。
その少しというのが あんまり小さなものだったので
悲しそうな顔が沈黙したことに対してなのか
ミクニの個人的な憂鬱なのかが
僕にはわからなかった。
この話はミクニと出会って間もない頃の出来事だったけれど
それから僕がミクニの顔を思い浮かべるときは
決まってその表情だった。
僕の中でミクニはいつも 少し悲しそうな顔で
僕を見ている。
