迷宮入りのドロシー。

博士、今日は特別な話しを聞かせてあげるよ。

僕の誕生日は今日。午後三時頃に生まれたらしい。
僕は4月1日が誕生日であることが昔から好きだった。
それは、4月1日がエイプリルフールだから。
嘘をついてもいい日。
4月1日に生まれた僕の存在自体を嘘にしてくれそうな気がする。
僕は僕が生まれていなければよかったと思ってる。
そしてそれは実際そうだろうと思う。
だから、誕生日がエイプリルフールなことがなんとなく嬉しいんだ。
生まれたことが嘘のような気がして。
けど、その思いも当日には無様に引き裂かれる。
4月1日がエイプリルフールだろうとしても
僕が生まれたことは消えない。
またひとつ年をとる。
悔しいと思うすぐその瞬間に思い知らされる。
まだ生きていると。
4月に入っても風は冷たい。
それはそうだ、昨日までまだ3月だったんだから。
僕は死にたい。
出来ることならすぐにでも死にたい。
何もしなくてもいつか死ぬことは知ってる。
そんなことじゃない。
違う。
死にたいじゃない。
存在を消したいんだ。
この世界に居なかったことにしたい。
はあ。

初めから存在しなかったと、そういうことにはできないの、博士。
記憶置換だよ。
出来ないの。
そう、役立たず。
知ってる?
 僕 ここに来る前はアートディレクターしてたんだ。
本にも載ったんだよ。
有名とかじゃないけど作品がね、ADC年鑑ていう本に載ったんだ。
他にもカレンダーだけ集めた作品集とかにね、載ったんだ。
嬉しかったよ。
もっと、上に行けると思ったんだ。
でもね、博士、行けなかったよ。
限界だったみたい。
エージェンシーにさあ、通院してることがばれて
担当者に呼ばれてさ。
主治医と話したって、すぐに休養させないと危険だって言われたって。
ねえ、医者ってさあ、患者のそういうのぺらぺらしゃべっていいわけ?
結局それで3日後にもう会社来なくていいって、休みなさいって言われたんだよ。
そのまま有給消化して、エージェンシーには一度私物を取りに行っただけ。
直属の部下にだけ理由を説明して、辞めること伝えて、それきり。
送別会もなかったよ。
自分の大切なもの全部奪われた気がしたよ。
辞めてすぐの頃は、毎日買い物して時間つぶししてたよ。
将来を考えることが怖くてさ。
百貨店の店員さんてさ、すごく親切だしマメじゃない。
だからさ、なんか癒されるんだよね。
特別室で試着出来るんだよ。
どのフロアからも好きな服持ってきてくれるの。
飲み物もただで飲めるし。
煙草だけは吸えなかったけど。
あれは楽しかったな。
西武行って、VIABUS行って、PARCO行って、
そのままタクシーで伊勢丹に行ったりして。
ね、楽しそうでしょ。
ほんと、楽しいんだよ。
でもね、仕事にはすぐ復帰するつもりだったんだ。
最初の頃はね。
でも、実際にはうまくいかなかった。
症状がどんんどん悪化しててさ。
症状って言っても昨日の記憶がなかったりとかそんなもん。
生活には問題ないよ。
大事なことはメモしてたしね。
でも、エージェンシーの担当者にぺらぺら喋ったあの医者が
症状が良くないって、回復してないって、あんたのところに紹介状を書いてさ。
それで、こうして博士の所に来たってわけ。
でもはっきり言って、博士でも治せないよね、僕のこと。
博士言ったよね、僕はゆるやかに症状が悪化してるって。
その理由は僕自身にあるって。
僕さあ、知ってるよその理由、というか原因ね。
僕はね、博士、元に戻りたい。
それだけなんだよ。
でも、戻れない。
わかってるんだよ。
だから、もう消えたいんだよ。
自分に価値があると思えたあの時から
僕の中の時間は止まってるんだよ。
煙草の煙って紫だよね。
知ってる博士?
光に照らしてみるとうっすら紫色してるんだよ。
本当だよ。
煙草吸っていい?
ありがと、ここって普段禁煙だよね。
煙草って苦い。
でも、好きだな。珈琲も苦い方が好きだし。
関係ないね。
要するにさ、迷子になった子供が家に帰れなくなってるみたいなもんだよ。
それにその家なんてもうとっくになくなってるし。
迷宮入りのドロシー状態だよ。
どうすればいい、博士?
俺はどうすればいいのかな?

あんた俺に何度殺された?

くすり。
今日の分ちょうだい。
帰る。
またね、博士。

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投稿者:

暁、闇。 akatsukiyami

アンビエントサウンド、ヘヴィメタル、エレクトロニカ、ノイズなどに教会音楽などを組み合わせて作られる彼独特のサウンドは、ダークで重いマシンビート、繊細で妖艶な旋律、攻撃的なノイズで狂気と安寧、相反する二面性を表現する。オルタナティブ、ヘヴィメタル、ゴシック、インダストリアル、テクノ、エレクトロニカ、クラシック、様々な様式で構築されるコラージュスタイルのサウンドは、彼が考える架空の世界や架空の国の物語からインスパイアされた世界観からイメージされるコンセプトで作られる。彼にとって楽曲を作ることはその世界観から生まれる物語を表現すること。箱庭遊びのように。

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