夜の公園で見上げた空は星が小さく輝いていた。
東京の空でも冬はこんなに星が見えるんだ。
僕はきみに少しだけ怒っていたから
きみのことを無視して姿が見えないところまでゆっくり歩いた。
そこで星をじっと見ていた。
オリオン座が見えた。
きみは実験だと言った。
これが僕の心を治すための実験だと言った。
要するに治療ってことだ。
そんなこと頼んでないのに。
面倒くさい女だと思った。
前にここで一緒に暮らしていた人がいた。
細くて肌が白くて感情がころころ変わる可愛い人だった。
いつも笑ったり怒ったりしてた。
1年前くらいにこの公園通りで彼女を送ったことがある。
タクシーなのにすぐにつかまえないで少しだけこの道を一緒に歩いた。
なんでだったんだろう。
繋いだ手に彼女は手袋をしていた。
そして、出かけるのは彼女なのに別れ際に気をつけてね、と言ったんだ。
おかしいよね。
僕は部屋に戻るだけなのに。
でも、あの人は気をつけてね、って言ったんだ。
懐かしいな。
タクシーに乗って、振り返る彼女の心配そうな顔を覚えてる。
今思えばあれは心配してる顔じゃなくて寂しそうな顔だったのかもしれない。
気がつくと一人だった。
星の中に一人だった。
それは多分彼女も一緒だったろう。
僕は暗がりの方へ名前を呼んで彼女を見つけた。
そして、彼女がカフェに行こうって言うから仕方なく行ったんだ。