ミクニと私。

私がまだ幼かった頃、わからないことがあるといつもミクニに聞きにいった。
ミクニは冷たい話し方をする人で。何と言うか少し怖い印象の人だったけれど。私は臆せずにミクニに会いにいった。
髪の毛が首の下まであって、性別不詳、年齢不詳、何人も人を殺したことがあるという噂を恐れて誰も怖がって近づかない。
でも昔のミクニは今のミクニと全然違っていたらしい。

かつてミクニは自分の王国を持っていた。
何もかも欲しいものは手に入れた、だけど
すぐに全てを失くした。
血を吐く様な悲劇がミクニの体中に詰め込まれてる。
そのせいかな。
ミクニは狂人か、もしくは世捨て人と云う感じが似合う。
無口だと思っていたけれど
実際は聞いていないことまで何でも話を広げて何時間も話す様な人だった。
それだけは意外で、印象としては何を考えているのか全くわからない人というのが一番合うだろう。

どうしてあんな冷たそうな人に話を聞きにいったのかといえば、、、、、
どうしてだろう。

何となくだけど、ミクニならきっと知っている。
そう感じていた。そう思っていた。それに私は変わり者が好きなのかもしれない。
ミクニは噂では三千年も生きていて他の人と比べたら知識の情報量が桁違いだというし、
周りの他の人と違って私を子供扱いせずに大人に話す内容と同じことを話してくれた。
(ミクニの目、瞳はエーゲ海のように青く真っ青で綺麗だった。瞳の奥は本当に海になっていて、更に奥を覗くと知りたい未来が見えるらしい。)
あと、これは理由にならないけれど何となく孤独に見えるミクニと話をしてみたかったのだ。
実際、ミクニは誰も知らないようなこと、例えば世界地図には載っていない誰も知らない様な王国に伝わる古い歌のルーツが
どの文明なのかと云う様なことまで知っていたのだ。本当かどうかは知らないけれど。

ミクニは今と変わらず毎日塞ぎ棍んでいて自分の部屋から出ることはあまり無く
毎日テラスの椅子に座って晴れの日も雨の日も何かが飛んでくるのを待っているみたいにずっといつまでも空ばかり見ていた。
集団は嫌いで普段は誰とも会いたがらない偏屈な人だったから友人もいない孤独な人だったと思う。
そう云う訳で会って話すことなど奇跡に近い人だった。
そんなミクニが幼い少女の私に会ってはなしをしてくれたのは、私がさよならだったからだ。
私はいずれ女王になる。
次の女王になる特権として私はその権利を利用してミクニと沢山の話をしたのだ。
私ならミクニに会いたいと思えばいつでもミクニに会うことが出来た。そんな身分だったのだ。
そういう訳で私は特に前もって連絡することもなく、いつでも唐突にミクニに会いにいった。

ミクニは何でも知っていた。ミクニは孤独で、でも、だからかな、何でも知っているのだと当時の私は勝手に想像していた。
何を聞いてもすぐに答えが返ってくるミクニが羨ましかった。
ミクニはなんて頭が良いんだろう。どんな勉強をしたらこんな賢い人になれるのかと思っていた。

話をするとき私はいつもミクニの目を見ていたけれど
ミクニは決して私の目を見ることはなかった。
(ミクニの青い瞳の奥に本当に海が見えた。真っ青で静かな海。瞳の奥でゆらゆらと青く波が揺れていた。)
ミクニが教えてくれることは当時の私にはとても難しくてあまり理解出来ていなかったと思うけれど
私はミクニと話をすることが好きだった。

ミクニは私が聞いたこと以外のことを沢山教えてくれた。
幼い私にはミクニが私の先生だった。
ミクニは難しい話が好きで、当時12歳の私に、
オイラーの等式、レイリー散乱、ミー散乱、相対性理論、ラザロ兆候、
ゲシュタルト崩壊、記号論について延々と話し続けた。
意味は理解出来なかったけれど、話を聞くことは嫌ではなかった。
そこがわたしにとってのミクニの不思議な魅力と云うことなのだろう。

そうだ、ミクニ、今度あなたの青い目で占って欲しいわ。
私の、私たちの、これから来る、過ぎ去っていく未来のことを。

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