“Hold the secret close”, I hear you say

彼女の場合。
26 MAY 2106

今週はずっと雨続きだったから久しぶりに青い空を見て昔のことを思い出した。
それは私たちがまだ知り合って間もない頃のはなし。
空の色は時間によって少しずつ変わることを私に教えてくれたのは幼なじみで今も同級生の司だった。
幼い私と司には難しい言葉でそれでも司は空の色と雲の色の変化はレイリー散乱とミー散乱の影響なんだと言った。
その話をしてくれた日の空の色もこんな風にとても綺麗だった。気持ち良く流れる風の温度も心地よくて、
まさかこんな良い天気に恵まれた日に自分が死ぬなど全くありえないように思えた。
私は今日のクラスは全部欠席して学園内をゆっくりと見て回りたくなった。
そして廊下で友達何人かと話している司を都合良く見つけて、話に割り込み強引にいつ果てるとも分からない散歩の道ずれにした。
中等部の校舎を出ると研究棟に続く道の脇にある座るのに丁度いい階段付近には話をしているグループがいくつもいて
ときどきどっとした笑い声が聞こえてきた。
司は午後受ける予定だった高分子生物学のクラスの単位を落としたことを根に持ったらしく、
暑さをしのぐために入った喫茶室に入り席に座ると
私の一番の悪い所は計画性のないことだと私がおごってあげたアイスコーヒーを飲みながら事細かく私を責めるのだった。
私は司に責められながら司の飲んでいるアイスコーヒーのグラスを見ていた。
グラスについている細かな水滴がキラキラ光ってその光がこれから私が成すことを祝っているかのように思えた。
私はこのまま時が止まって仕舞えばいいのになと訳もないことを思いながら氷が溶けてしまって薄くなったアイスミルクティを飲み干し、司に「行こう。」と言って外へ出た。
サングラスを外すと外はもう昼間の眩しさが嘘のように優しい光に包まれていた。陽が沈み夜を迎える準備をしていて
ついさっきまで頬を気持ち良く撫でていた風は二重人格かのように姿を変え夜の闇と混ざり合って寂しく冷たいものへ変えてしまった。
昼には学生でごった返していたこの広い構内も残っている人はまばらで階段に腰掛けて話をしていたグループはみんなどこかへ行ってしまっていた。
時計を見ると18時を少し過ぎていた。
私は司と一緒に部室のある研究棟に向かった。

私と司は幼なじみで今までずっと一緒に過ごしてきた。
司の苦手なものを知っている。
司が好きなものを知っている。
司の癖も知っている。
司の好きな作家や作品、音楽、将来の夢、司の全てを知っている。
そして私は司を誰よりも愛していた。
司の優しさや寛容さそして私への愛を何よりも私は尊ぶ。

司がコーヒーを淹れてくれた。
とても美味しかった。
「ありがとう、司。」と私が言うと「なにそれ、大げさ。」と笑いながら司が言った。

(そんなことないよ、とてもおいしいんだよ、ありがとう、つかさ。)

「ねえ、司、、」と少しためらいながら言葉を続けて言った。
「私、もうこれ以上大人になりたくないの。だから、18歳になる前に死にたいの。いつ迄も17歳でいたいの。ごめんね。」

司は知っていたよ、というような顔をしたあとに俯いて随分な時間黙っていたけれど、
結局は視線を起こし私を見つめて「いいよ。」と言ってくれた。
その言葉が合図になった。
部屋の空気は凍りつくような緊張を一瞬で作り出して蜘蛛の巣に絡め取られたような沈黙の後に私は司を抱きしめて、

「ありがとう」と言った。

ソファに楽な姿勢で横になって、準備を整えてから、
司にこの後起こること全ての責任を押し付けることになること、警察に拘束されるだろうことを謝罪した。
司はそんなこと気にしなくて全然いいんだよと言って笑顔を作ってくれる。
私は司がいるからこれまで生きてこられたんだなということを改めて思った。
世界で一番大好きな司が見守っていてくれる。
死ぬことへの恐怖から守ってくれている。
死ぬまでずっと一緒にいてくれる。
本当に私は幸せだ。

そして私は手首に致死量のオピエイドが入ったパッチを貼り付けて司だけを見ていた。
司はソファに横たわる私を同じように見つめながら煙草を吸っている。
煙草の煙が天井に登るのを見て、私の体から白い魂が出てどこか特別な楽園へ昇っていく様子を思い浮かべた。
オピエイドのパッチを貼ってすぐに私の体はアヘンに支配されていった。
とても気持ちが良くて目に飛び込んでくる光の大量な槍が私の体のありとあらゆるところを突き刺しにした。
快楽の天井に私は祭り上げられ女神になった。
次第に意識が拡大していき自我を構築している内と外に分けられていた神経系を外へと解放すると
私を私と規定していた構造が崩れだして自己と非自己が認識できなくなって、
そこで私という自我は消えた。
代謝と循環を司る神経系が機能しなくなり呼吸が止まる。
心臓が止まる。
そして全ての機能が止まった。

司が口づけをした。
もう息はしていなかった。

私を失くして
きみはひとりきりになった。

私のワイアードはきみの名前がパスワードなんだよ。
きみならいつかまたあえるから。
それまで少しだけさようなら。
いまでもちゃんとつながっているんだよ。

1-3

地獄の季節。春。

原因が何であったとしても
依存症という病が一番たちが悪い。
とりわけ渇望や誘惑に弱い受容的な人達にとっては。
(受容的ではない人間などいないとは思うけれど。)
問題は何が人を受容的にさせるかだ。
受容的な個人と薬物や行動の組み合わせが
依存症を開花させる。そして殺す。
(Y.S / Diary 17, May, 2016)

14:01:11 PM
退屈な経済の授業のテキストを画面脇に押しやってメインフレームに映し出されているのは
半世紀も前の名も知れぬ社会心理生物学者が専門誌の片隅に書いた短いテキストだった。

「人間は社会的・心理学的環境に強く依存している。」by アーヴィン・ネルヴァル

14:01:44 PM
何かに憑かれたように「~依存している。」という部分を何度も頭の中で繰り返し読み返していると、なにか不思議な感覚がした。
(頭の中で、僕の声で、何度も何度も、小さな声で読み直した。)

14:02:22 PM
僕は「アーヴィン・ネルヴァル」をサーチした。
すると幾つもの幾何学模様が小さな星座を無数に描いてあらゆる「アーヴィン・ネルヴァル」でスクリーンを埋め尽くした。
「アーヴィン・ネルヴァル」は思っていたよりも沢山いるらしかった。
それでタグに「社会心理生物学者」を追加してタップした。
するとスクリーンを埋め尽くしていたワードの群れがたった一行になり、第一世代のアーカイヴウェブリンクだけ残して全部消えた。

僕は「また退屈だ。」

こういうことは第一世代から第三世代までのオンラインデータがすべて揃う教育機関で使われるような古いサーバーではよくあることで
殆どは何の役にも立たないゴミばかりで価値のあるものなんてまずない。
今までこうしたことは山ほど経験してきたからよく知ってる。
それでも「何もない。」と自分に言い聞かせてタブレットの履歴データをすべて携帯にデスクコネクトしてから取り敢えず授業に戻った。

Irvin11222-1.pdf

「人間関係神経生物学」
19 MAY 2016

神経系の機能を定める原因は、人間関係に起因している育時期に世話をしてくれる人、人生において愛する人たち、
それに我々を取り巻く社会的環境すべてとなる。
その為人間の神経生物学的な要素と人が育ち存在している環境は切っても切れない。
そしてこの関係は死ぬまで続く。
脳の発達期である幼少期もそうであるし
大人になってもそれは変わらない。
だから人間は個人差があるとしても誰もが何かしらの依存症になる。
生活に支障がない依存症であれば自覚はなく生命の危険がなければ誰も気づくこともない。
人間は誰でも何かしらの依存症を患っているのだ。
ただし依存症すべてが治療を必要とするわけではない。
だから社会は人間という個体差の大きいパーツで出来ていてもシステムとして機能する。

by Irvin Nerval

僕もそう思う。
ただ僕自身はパーツにはならないけれど。
もうすぐ死ぬからね。

携帯が鳴った。
クスリがキマって若干ハイになっていた僕は、
コールする携帯を掴んでスクリーンに表示されたよく知ったきみの名前をスライドして消した。

うつつでいようか、それとも、

いくらこっちを見られても
もう二度と見つめ返しはしないと
僕はいま、決めた、

おやすみなさい、きみ、

ゆめであおう。

1 (1)

Endless Universe is Reincarnation

はやくみつけないと、きみが、まっている、

わたしのこと
すき?

きこえない
すき?

わたしはね
わたしはね

もっといきていたかった
いきて
いきてて
なにもしなくてもいいから
いきてて

COME TO THE SPECIAL MY UNIVERSE

わたしがいまおもっていることを
ぜんぶつたえたい
あなたのこと
せかいのこと
わたしのこと
しんだこと

わたし、もういない

しんだの
だからこれは
ぜんぶ
いしょにかかれていることなの

わたしはしんだから
じかんはないの
なにもないの

わたしのしたいはやかれて
たんそとちっそとすいそにかんげんされて
わたしをげんじつのせかいでみえるようにしていた
なんぜんおくというぶんしのつながりをつないでいた
しなぷすがひとつのこらずじょうはつして
すべてをばらばらにして
はへんだけになって
それさえもつながりはなく
もえきったあとにのこったのは
どこかのほねだとわかるかたちのはいのかたまりで
ゆびでふれるともろくくずれておちる
そして
なにもない
ただのしろいすなとおなじ
もうせいめいじゃなくなったわたしには
いしきもなければかたちもない

それは
だれのめにもうつらない

くうきでさえない

かなしくないよ
くるしくもない
なんだろう
なにもかもうちゅうなの
ここが
うちゅうなの

おおきくなったり
ちいさくなったり

でも
けして
みえない
だれにも
みれない

ちっそと
けいそと
たんそと
すいそと
いくつかのげんしで
できた
げんしてきな
うちゅうなんだよ

わたしが
うちゅう
なの

あなたもしんだら
きっとわかる

うちゅう
なんだよ
ぜんぶ

1

私たちの成れの果てとディラックの海。

ずっと前もそうだった。
ここではない宇宙で見つける意味があるなら
いつかずっと繋がるような奇跡が起きることもあるのかな、、、、それは、、、ないよね。
それではあまりにも私の都合に良すぎる。
私ひとりのためにこの宇宙が存在していることになってしまう。
あの星も、あの星も、あの星も、みんなみんな私のために輝いているなんてことにはならない。
ここでは何もかもが在るようでない。全てが宇宙なんだ。
何度も出逢いと別れを繰り返す私たち二人はどういう現象なのだろう。
例えば私が陽子であなたが電子なら、私たちは原子核の周りを回っている。一時も休むことなく何百億年も続く。
私があなたに追いつこうとすれば私たちは離れていく。
我に返ってあなたのスピードに合わせようとすると私はあなたを弾き飛ばしてしまう。
1兆年とその10億倍のさらにその1兆倍の年月が過ぎたら、
エネルギーも尽き果てて、陽子と電子、共に原子核に落ちるときが来るのよ。
それが私たちの行き着く果てなら、暗く重い闇も上等な天鵞絨に思えてくるの。
私はそれでいいの、本当に。生きて、生きて、生きた、何兆億年の交わりの記憶を持って過ごした実時間がたった1時間だったとしても私には価値がある。
寂しくて悲しくて暗い空に怯えていた私に光をくれたあなたが私のすべてなの。だから、この宇宙が在る限り私たちの恋は終わることはないの。
私たち永遠に閉じこめられたの、きっと。ここが永遠。
だって時間が止まっているんだから。

17 May 2016
信号が青に変わった。(ここに刹那があるんだね)
私は足を止めて左手に嵌めた腕時計の針をじっと見ていた。
私の背中や腕に迷惑そうに沢山の人がぶつかりながら私の両脇や後ろから押しのけて通り過ぎて行く。
後ろから一台のトラックが蛇行運転しながら突っ込んでくる。
(真央が夢の中で見たとおりの時間に事故が起きる。)
トラックが急にハンドルを切ってガードレールの方へ向って突っ込んだ。
トラックはそのままの勢いでガードレールを破壊しながら小学生の歩く歩道へ突っ込んだ。
それでも止まらず、近くの電信柱に衝突してやっと止まった。
歩道を歩いていた小学生たちの母親が泣き叫んでいる。(私はこれを昨日見た)
小学二年生の男の子と隣に住む小学三年生の女の子が死んだ。
ほぼ即死だった。
トラックの運転手も死んだ。
でも死因は事故じゃない。運転手の死因は脳卒中によるくも膜下出血。
運転手はトラックの運転中に脳卒中を起こして意識不明になってガードレールに突っ込んだ。
(全部知っている)

命は儚く散る短さが美しい。
何処にいるの、ねえ、
きみは、、、

はやく、みつけない、と

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死合わせな、死合わせな、

2016-05-03 15:27:21
テーマ:死合わせな、死合わせな、
あなたの秘められた運命こそしらないが、あなたにかんするすべてのことが、ぼくの興味をそそるのだ。だからいってくれたまえ。あなたは地獄の王子の棲家なのか。それをぼくに答えてくれ・・・・・・わだつみよ、ぼくにそれをいってくれ(ぼくひとりにだけでいい、いまだに幻影だけしかしらない者たちをかなしませないために)。

(Le Comte de Lautréamont / Les Chants de Malodor chant 1)

私たちは一瞬だ。
宇宙に広がる広大な時間の中の小さな点にしかすぎない。
それでも私は彼を見つけることができた。
(やっとあえた)
ずっと長い間探してきた彼が意外なことに同じ高校の同級生だと知って驚いた。
話したこともないし特に他に関わったことが何もないから同級生だったのに気付かなかったのだ。
彼は教室のみんなから名前で呼ばれない。沢山の酷いあだ名で呼ばれているのだ。
夏生に振り向くと、気のせいか少し泣いてるように見えた。
ごめんね夏生、あなたは私が教える方法でイジメを苦にして自殺するの。
すぐにあとから行くから待ってて。

私はそれから夏生に近づくためにインターネット上に会員制の自殺サイトを立ち上げて、自殺サイトへの招待メールを夏生に送った。
そして夏生は思惑通りに自殺サイトへ登録し、掲示板へ書き込みをした。

>なるべく痛くなくて確実に死ねる方法を教えてください。」

私はこの書き込みに返事をした。
「10階以上のビルから飛び降りると確実に死にます。」

>飛び降りは確実なのは知っていますが高所恐怖症なので、他の方法はありませんか

私はすぐに返事を返した。
「飛び降りより確率は下がりますが、頸動脈の切断をお勧めします。」

>確率は下がるというのは死ねないかもしれないということですか

「そうです。ですが方法を間違えなければちゃんと死ねます」

>特別な方法があるんですか。普通に切るだけではだめなのですか

「普通に切るというのが一般的な普通を指しているなら、普通に切ってもだめです。ただ切るだけでは頸動脈へナイフは届きません」
私は素早くタイピングして返事をした。そして続けてこう打った。
「頸動脈を確実に切るにはコツがあるのです。知りたいですか」

5分くらいの沈黙のあと、返事がきた。
>教えてください。知りたいです

こうしたやり取りをしたあと、私はここでは書けないから会って話したい、と告げて会う約束を取りつけた。
ベランダに出て夏生のことを思った。
煙草に火をつけて前世の夏生を思い出していた。
そのとき夏生は23歳で私は6歳だった。
大きな戦争があった。
夏生は思い出してくれるだろうか。
夏生に会えても夏生が前世の記憶を思い出さない限り
私と夏生は出逢っていないのと同じなのだ。
だから夏生にはどうしても私たちのことを思い出してもらう必要がある。
この世で輪廻を成功させなければ、次の輪廻まで待たなければいけなくなる。
これは不確実で不安定な出逢いなのだ。
この宇宙で唯一たった一度きりのランデブー。
私の生きる意味。

それはいつ始まったのかわからない。
(KISS HEART UNDER THE LION’S HEART)
急がなければいけない。もうすぐ夏生は死んでしまう。
私はこのチャンスにこの世の人生すべてをかける。

どうせ、私ももうじき死んでしまう。
私たちの出逢う時間はいつだって短く限られているのだから。

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月と猫とナイフ。

見飽きた。夢は、どんな風にでも在る。
持ち飽きた。明けても暮れても、いつみても、街々の喧噪だ。
知り飽きた。差し押さえをくらった命。ーああ『たわ言』と『まぼろし』の群れ。
出発だ。新しい情けと響きとへ。

(Jean Nicolas Arthur Rimbaud/Une Saison en Enfer)

深夜2時、足音をたてないように静かにバスルームのドアを開けて中に入ると内側から鍵をかけた。
洋服は脱がずに携帯とサバイバルナイフを持ってお湯に浸かる。
携帯は濡れないようにタオルの上に置いた。
灯りは点けなかった。
緩いバスタブの中にゆっくりと体を伸ばしてリラックスできる体勢で携帯を手にとりブログに載せる最後の文章を考えていた。
終わりらしくない文章がいいいなと思った。
エンドレスに続いていくようなメビウスの輪のような文章を探していた。
言葉の世界は無限だ。
言葉の世界ではどんなことも実現できる。
例えば、僕だけがいない世界とか。

僕は僕だけが知る魔法で意味不明な文章をパズルのように壊しながら並べていった。
それは他人が読んでも意味が伝わらない。
僕はもう誰にも何も伝えたくない。
この世界がどんな価値のある世界かなんて関係ないと思った。
悲しみと苦しみの世界、誰にも僕のことは理解できない。

もうすぐ死ぬ。
佐内が言った言葉を思い出した。
前世の記憶か、
佐内は何を思ってそんなことを言ったのだろう。
頸動脈を確実に切るコツを僕に教えた後に。
僕が本当には死なないと思っていたのだろうか。
佐内は僕の記憶には何も残っていない。
前世の記憶なんてばかげてる。
僕はブログを書き終えた。
ただし、公開するのは明日の夜にした。
勘のいい人が気づくと困るから。
携帯はバスタブの底に沈めた。
防水じゃないからこれでデータが壊れるはず。
やり残したことはもうない。
携帯のディスプレイの灯りが消えた。
携帯を底から拾って確かめてみる。
どのボタンを押しても何も起こらなかった。
きちんと壊れていることを確認して再びバスタブの底に沈めた。
暗がりの中で外から漏れてくる月明かりを頼りに時計を見る。

03:23

そろそろ外が明るくなる。
僕はサバイバルナイフを右手に持って首筋に刃を当てた。
ちくんと軽い痛みがした。
僕は宇宙を思った。
いつか、この宇宙も消えてなくなる。
何もなくなって無になる。
僕は死んだ友達のことを思った。
友達はもういない。死んだら消えるんだ。
もっと長く生きることもできたかもしれないのに、死んだら終わる。
僕が死んだら誰か悲しむだろうか。
誰かは悲しむだろう。
でもその誰かもいつか必ず死ぬ。
誰でも死ぬ。
誰でも一回絶対に死ぬ。
僕は小さく呟いた。
僕は今から死ぬ。
僕はもう宇宙になる。
消えて終わる。
終わった世界を見てみたい。
確かめなくちゃ、誰よりも早く確かめたい。
知りたい。早く知りたい。
終わった世界。

僕はもう何も考えていなかった。
終わったんだ。

ふと猫の鳴き声が聞こえた。
ごめんね。

首筋にナイフの刃をたてる。
握る手に力を込めて思い切り刺した。
その瞬間、凄まじい痛みで無意識に握る手の力が緩む、
僕はなんて弱くて、情けない、でももう嫌なんだ、だから、これだけは絶対にやり遂げる。
握る手に思い切り力を込めてナイフを首筋に沈めた。
ナイフ越しに心臓の鼓動がはっきりとわかった。
そして、ナイフで思いっきり切り裂いた。
一瞬で血が天井まで吹き出しバスルームが血にまみれた。
激しい痛みで意識が飛びそうになる。
5秒、
痛みが消えた。
10秒、
クラシカルなドレスを着た少女が見えた。
(誰だっけ、)
11秒、
皮質系が機能しなくなり意識が消えた。
16秒、
心臓が止まって僕は死んだ。

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天使・イン・セブンティーン。

わが愛は火なり、そはすべての狂える肉を焼きつくし、
さて香煙のごとくに消え失せしむ、
わが愛はまた洪水なり、そが濁流のうちに
わが蒔きし悪しき芽生えを、ことごとくおし流す、

Paul Marie Verlaine / Iil faut m’aimer

駅で顔も知らない愛しい人を待っている時間というのは、
鉄を熱して二つに分ける際に、鉄が融点に達した瞬間それまであんなに頑丈だった塊が
何事もなく伸びるあれに似ている気がすると佐内は思う。
駅に着いてから二時間が経ち待ち時間が長くなればなるほど時間はスピードを緩め
さっきまでの5分がいまでは一時間待ったかのように感じる。
私は入場券を買って朝の4時から待ち人が現れるのをずっと立ちっぱなしで待っていた。
電光掲示板を見ると。次に来る車両は16:43着である。
煙草が吸いたかった。
車両が到着するたびに改札口は人で溢れた。
私は大勢の人の群れの中から彼を見つけようと必死で見覚えもない愛しい人を探し続けた。
17:34
私は時間が過ぎていくたびに不安な気持ちが強くなっていた。
もしかしたら愛しい人はすでに降りていて私が見落としたのではないか。
彼はもうさったあとではないか。そういった不安は最初から覚悟していたものの
実際になってみてそれがどんな重圧を持って私に不安を強いるかなど想像もしていなかった。
もう彼は行ってしまっていたら。
もし見落としていたら。
私は愛しい人と二度とこの逢瀬で出逢うことはできない。
もしそうだったらどうしよう。
私はなんのためにこの世に生まれてきたのか。
私は愛しい人と再会するために前世で約束を交わした愛しい人をいま待っているのだ。
佐内は黒い皮の学生カバンの中から手帳を取り出して今日の日付のページに栞のように挟まっている小さな一枚のメモを見た。
「西園寺夏生」
メモには名前だけが書いてあった。
私が17年間かけて彼についてわかったことはこの世での名前だけだった。
そして今日この駅に彼はやってくる。
タイミングは今日しかない。今日を逃したら二度と出逢えなくなる、そうなったら最悪。
出逢えなかったら次の輪廻まで機会はない。
佐内は疲れても煙草が吸いたくても全部我慢して改札口だけをじっと見ていた。
19:33
次の車両が来るのは19:37だった。
佐内は携帯電話にひっきりなしにかかってくる電話やメールも全部無視して集中することに努めた。

どんな人だろう。
年齢が同じなのは知っているけど
大人っぽいのか、子供っぽいのか、どちらでもないのか。
髪の長さはどれくらいだろう。
どんな声で話すのだろう。
太っているのか、痩せているのか。

佐内は深いため息をついて目を大きく開けて両手で頬を叩いて、自分に喝を入れた。
なんでもいい、はやくきみに逢いたい。

車両が到着して改札口が人の群れで埋まる。
私は必死で彼を探した。
21:22
佐内が待ちくたびれて、しゃがみこんた。
「もう、あえないのかな、」と小さく呟いて膝を抱えて丸まって下を向いた。
22:34
22:36、到着の車両が着いて改札口が人で埋まる。
しゃがんだまま佐内は人ごみの中を必死で探し続けた。
たくさんの顔を見たけれど彼はどこにもいなかった。
そして、みんな行ってしまったあと、佐内はまた下を向いてしまった。

「大丈夫ですか」
突然声をかけられた私は驚いて立ち上がった。
疲れているせいでぐったりしていた私はゆっくり声の主の方を向いた。
顔を見た。
「西園寺夏生」私は心の中で名前を呼んだ。
私の世界がスローモーションフィルムのようにゆっくりと優しく私を包みこむ。
佐内はついに見つけた。

この人だ!
私の愛しい人。
嬉しい、嬉しい、嬉しい、
17年間待ち続けた。
そして見つけた。
嬉しい。ありがとう、神様。
「ありがとう」

やっと逢えたよ、夏生。

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ヴァージンスーサイド。

野に咲く春の花も今はもう
お前ほど私をひきつけはしない。
天使よ、お前のいる所にこそ愛と情はあるものを。
お前のいるところにこそ自然もあるものを。

Johann Wolfgang von Goethe / An Bleinden

佐内がソファに座っている僕に後ろからボールペンを差し出して「持って」と言った。
僕はボールペンを握った。
「これがナイフね」と佐内は言って僕の後ろからボールペンを握っている手を上から優しくさわって掴んだ。
「ナイフの刃は上向きで首筋に押し付ける。」
僕の首にボールペンのナイフが押し当てられる。
佐内に後ろから抱きしめられる感じになって、佐内の香水が香って、
死の講義を受けている自分がどうしてこんなことでドキドキするんだろうと少しおかしくて多分笑った。
そんなことを気付くはずもない佐内は講義を続けて、
「そして、押し付けたナイフをさらに深く、動脈の鼓動がはっきりとわかるくらい強く押し付けたら、一気に引くの。こう。」と
言って僕の手を強く握りしめてボールペンのナイフで切り裂いた。
そのときの感覚がボールペンだということを忘れるくらい余りにもリアルだったので僕はこれがこのまま、
ボールペンじゃなくナイフだったら、佐内に手を握られてその手に操られて切り裂いてもらえるのだったら
本当に素敵だろうなと思った。
佐内は僕の手を離して煙草に火をつけながら「ね、わかった。簡単でしょ。」と言って煙を吐いた。
僕はボールペンをもう一度自分の首筋にあてて強く押し付け動脈の鼓動に押し付けて一気に引いてみた。
「うん、大丈夫。これならもうやれる。ありがとう佐内。」と僕は言うと、 少し置いてから
「ねえ、動脈切ったら即死するのかな、、やっぱり痛いの、、かな、、。」としどろもどろに佐内に聞いた。
「そうね、、即死ではないね。これはね私の推測と実際に試して未遂に終わった人とかの記事からの話になるんだけど、、
基本的には最初は痛い、でもね、5秒で体の4分の一の血液が吹き出して首から下の感覚は全て麻痺するはず。そして、人によるけど大抵5分間くらいは脳内の神経に酸素が残ってるから若干なりとも意識があるはず、でも朦朧としていて集中はできないはずだから夢を見るような感じだと思う。だから、みんなバスタブでやる人が多いよね。お風呂に入りながらリラックスして最後にお別れをして首筋を切り裂くの。真っ赤だよ。赤い世界、時間が急速に流れ出して、血液が半分もなくなったら視界から色が消える。モノクロの世界。最後に見る夢はモノクロなんだって。そして夢になって。閉じておしまい。そんな感じだよ。」
「怖くなった?」と佐内が言った。
僕は「いや、その終わり方優しくていいかも。バスルームが血まみれで驚くだろうけど、両親は。」と答えた。
「そうよかった。じゃあ、今度はこっちの番だね。」と佐内が言った。
その思いがけない返事に僕は驚いて「え。」と間抜けな返事をしてしまった。
「キミキミー、世の中ギブアンドテイクなんだよー。そして、私はもう君に既に情報を渡したのだから、今度は私が貰う番なんだよー。」と佐内は言って上機嫌な笑顔で笑った。
佐内が報酬を要求してくるとは思っていなかったので焦って冷や汗が出てきたけれど
「佐内、悪いけど僕お金はあまり持ってないよ。ただで教えてもらえると思ってたから。ごめん。」と僕は佐内に言った。
佐内はそれを聞いて同じ笑顔で「大丈夫だよー。お金じゃないもん。私の欲しいもの。へへへー。」と言った。
それで僕は「じゃあ、佐内の報酬って何なの。」と聞いた。
すると佐内と僕は隣同士で見つめ合う形になった。
ほんの数秒が永遠に感じる。
佐内の瞳は揺れている。
もっとよく見ると瞳の中に僕が見えた。
佐内の瞬きすら見える。
こんな近くで女の子の目を見るのは初めてだった。
思えば佐内とこうして知り合う前までは
女の子とこんなに近づいたことすらなかったんだ僕は。
そして、佐内はとても綺麗な目のままで、僕に向けてこんな絶望的な言葉を言ったのだ。

「私の為だけに生きなさい。私のことを早く思い出して。何度も繰り返した、前世からの約束を果たして。」

公式ブログ用フォト - 2 / 3

ギルティエンジェル、切り裂いたら、笑ってよ。

孤独 暗礁 天なる星
何もてもあれ 他ならぬその値とは
我らが布(きぬ)の 白き苦しみ。

Poésis de Stéphane Mallarmé / Stéphane Mallarmé

店内は休日とあってどこの席も混んでいた。
僕の前には誰も座っていない椅子とアイスコーヒーが置かれている。
約束をしたものの僕は誰かに騙されているのではないかという気持ちでいた。
それでも約束の20分前に僕は指定された喫茶店に来ていた。
どうやってお互いを確認し合うのだろうかと僕が尋ねた時、彼女は「私がわかるから平気」と言った。
つまり僕を誰だか知っているということ。
普段いじめられている僕にとってそれはあまり気持ちのいいものじゃなかった。
ただ言葉使いから相手が女の人だということはなんとなく感じた。

僕の試行錯誤を切り裂いて、突然に「お待たせ」と彼女は言って笑顔で目の前の椅子に座った。
佐内茉央がそこにいた。
「君なの?」と僕が呆然として言ったら「そうだよ」となんでもない返事を佐内はした。
「でも、どうして君が何で」と続けて僕が言うと
「うーん、趣味よ、単なる趣味」と佐内はオレンジジュースのストローをかじりながら僕の目を見て言った。
そのあと佐内は窓の外を眺め人の群れを見ているそぶりをしながらオレンジジュースをゆっくりと飲み干すと、
「行こっか」と僕を見て言った。
立ち上がって僕の手を握って「いいから行こう。ここじゃ話せないよ」と僕を引っ張って歩いた。
人通りの多い坂道を佐内に手を握られながら少し歩いて右側に曲がると小道があって
その小道を下ると派手な看板ばかり続く歓楽街で僕は少し恥ずかしかったが
佐内は気にしていないようだった。
そして、急に止まると「ここだよ」とキラキラしたロゴが飾られたラブホテルの入り口を僕の手を握りながら引っ張って入っていった。
初めて見るラブホテルのエントランスをキョロキョロ見回している僕と対照的に空き部屋を何事もなく探している佐内がいた。
佐内は「ここにしよ」と言ってカードをかざすといつの間にかエレベーターが前にあって勝手に開いた。
エレベーターに乗って僕が「どうしてここなの」と聞くと佐内は「こういうところはカメラもマイクもセキュリティ条例を無視して一切付いていないの。だから密談にはぴったりなのよ」と言った。
僕は握られたままでいる手が汗ばんでいないか心配しながら彼女の言ったことを「なるほど」と思った。
部屋の前に来ると佐内が立ち止まって僕を振り返り「私を信じて」と言った。
僕は何も言えずただうなづいた。

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八月の殺し屋は天使。

 いとしい想像力よ、私がおまえのなかでなによりも愛しているのは、
おまえが容赦しないということなのだ。

Manifeste du surréalisme/Poisson soluble / André Breton

頚動脈を確実に切るためにはコツがあるのだと教えてくれたのは、
意外にも三年も同じクラスだったのに一度も声もかけたことも話したこともない佐内茉央だった。
佐内は学年で常にトップに名前があるくらい成績優秀、
しかも特別に神様がズルしたのではないかと疑うくらい誰もが認める美人だった。
だから、彼女の周りには友達や知り合いになりたい連中がいつも溢れている。
そして僕は深刻ないじめにあっている、どこにでもいそうな
なんのとりえもない人間だった。
この二人が会話するなんてことはその瞬間が来るまで想像したことさえなかった。

その日は去年の8月、最高に暑くて、3分歩いただけで汗が顔中を濡らし顎から滴り落ちていった。
僕は額の汗を拭きながら歩き続け、人で賑わう駅前のショッピングモールを逃げるように足早に通り抜けて、
人気のない寂れた商店街に隣接する古びた商業ビルの中に入った。
ビルの三階にあるネットカフェの受付でいつもの席を選んで静かに自分の席に移動した。
僕はパソコンをスリープから起こして、1年前に知ってから必ず見る自殺サイトにアクセスした。
サイトには掲示板がいくつか用意されていて、自殺の方法教えます、とか、復讐しませんか、
心中しましょう、などがあった。
僕がいつも見るのは、自殺の方法教えますの掲示板。
なるべく痛くなくて人に迷惑のかからない方法を探していた。
5月になる前には死のうと決めていたから、
そろそろ本当に自殺の方法を決めなければいけないと少し焦っていた。
僕はいつも他人の相談や返事を読んでいるだけだったけれど
その日は焦りもあってずっと躊躇って出来なかった投稿を自分ですることにした。
内容は確実に死ねてなるべく痛くない自殺の方法を教えてください、というものだった。
投稿してずっとどきどきしていた、どんな返事がくるだろうか、
無視されないか心配で、投稿しなければよかったとさえ思えてくるくらいだった。
けれど予想より早くすぐに回答が来た。
内容は簡潔で頚動脈を切る方法を勧めるものだった。
理由として、頚動脈は切ってさえ仕舞えば5分で死ぬため
誰かに見つかったとしても蘇生させられることがほとんどないということ、
痛みもほとんどないということだった。
ただし、頚動脈を自分で切るためにはコツが必要だと書かれていた。
そして、そのコツを知っているけれど、
警察に捕まる恐れがあるからここでは教えられない。
知りたければ直接会って教えたいということが書かれていた。
僕は会う約束をした。

もうじかんがない
はやくおしえて
しにかたを

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