夢のような日。| Parade Alone

Jul 22 2012 3:12:32

やっぱり本当の夜はいいな。
昼でもここは夜と変わらないけど。
西向きと東向きに二つある窓、
どっちもカーテンで閉められてるんだよね。
真っ黒くて分厚い遮光カーテン。
おかげで、ここにいると時間感覚が狂っちゃう。
時計は必須だよ。
腕時計に置き時計が1、2、・・5つ。多いな。
あれ、このデジタル時計、今昼だ。
みんなバラバラの時間で行動するから
ここにある時計って全部同じ時間のものないんだよ。
誰のだろ?
今昼か。ふうん。

どうでもいいや。
とりあえず僕はグリニッジ標準時を採用してるから
本当の時間軸で生きてるよ。

ええと、それでさ、
今日はね、特別な日なんだよ。
記念日とかいう意味じゃなくて、
ある人がここへ来る。
超重要人物。
僕が会うの4度目くらい。
滅多にお目にかかれないよ。
超レア。

あ、、、あれ、
なにしようとしてたっけ?

もう、3時だ。
あ、今日はあの人が来る日だ。
嬉しいな。
何かくれるかな。
挨拶とか失敗しないようにしなきゃ。
最後にあったのって、多分、5年、まえ、くらい?
雪が降ってたような、うーん、思い出せない。

そうだ、コンピュータのカレンダー見れば。
昔のデータ残ってる、かな。
ああ、ないっぽいな。

そいえば、あのときって
大変だった、え。?
たいへん、?
何かたいへんなこと、
が、あって、
たいへんなこと。
なんだっけ?
すっごい・・・たいへん  

だった、ああ、でもー、
なんだったけ。
思い出せない。
あの人が来たら聞いてみよう。
あの人は忘れたりしないから絶対知ってるよ。

いつくるんだろ。
あれ。

誰が?
誰が来るんだっけ?
誰か来るの?

誰?
誰だっけ?

また、忘れちゃった。
僕の記憶回路は壊れてるよー。

いいや。

のど渇いたな。
冷蔵庫に何かあるかな?

冷蔵庫、冷蔵庫、と。
はい、開けます。

・・・え。

人のあたま、だ。   閉めよう。バタン。

・・・
ちょっと、びっくりしたぞっと。

誰の仕業?
やめてよ、ほんとに。
気持ち悪いからさ。
僕、グロい系苦手。ほんと、無理。
冷蔵庫、買い直す、絶対、決定。

虚ろはベッドの上に飛び乗って
ベッドサイドから寝転んで
キーボードに手を伸ばして素早くタッチする。
コンピュータの画面をブラウザに切り替えて
慣れた手つきで冷蔵庫を検索している。

これでいいや。
これにしよ。

ああ、でも冷蔵庫。
あのままじゃ処分してくれないよね。
僕がやるか、誰か他の、

あたまのなか、で、こ、えが、き、こえ、る
うつ、ろ、ひさ、ぶり、
あ、たまが、か、らd、だがきゅ、に

4時1分か。
バースデーと一緒。

さ、早く片付けて帰ろう。あの人が待ってる。

語りは冷蔵庫を開けて、
人のあたまが入っているのを確認する。

虚ろにも困ったな。
毎回、姉様は後片付けを僕に押しつける。
こういう汚れ仕事はジンロウあたりが丁度いいと思うけど。

人のあたまは結構重い。
語りは両手で耳の下を支えて冷蔵庫から取り出す。
それから用意していた分厚いビニールの蒼いゴミ袋を広げて
中に転がすように投げ入れた。
(ボーリングみたいだな。)
そして、あたま全体が隠れるように
ベッドから剥ぎ取ったシーツをぐちゃぐちゃにして中に押し込んだ。
冷蔵庫の指紋を全部拭き取ったあと、
ガソリンの入ったポリタンクをふたを外してから持ち上げた。
(全部語りが用意したもの。)
冷蔵庫の上から
ガソリンをぶちまけていく。
部屋中、ガソリンの匂いが充満してる。
語りはライターを取り出した。
火を付けたまま
ガソリンまみれの冷蔵庫の足下へ投げ捨てた。

一瞬、ライターの火が大きくなって、
そのあとすぐに小さな爆発音がして火は天井に燃え移っていく。
すぐに部屋全体が黒い煙でいっぱいになった。
語りはドアから平然と部屋を出る。
入ってきたときと同じように静かに開けて、静かにドアを閉めた。
それから、ゆっくり歩きながら最短距離でエントランスを出て
何も無かったように、いつもと変わらない自然な動きで
大通りまでゆっくり歩いて、
いつもと同じように小さく手を挙げてタクシーを止めた。
開いたドアの中へ入る。
「三軒茶屋へ行ってください。女子大の近くになったら教えてください。左折したい場所があるので。」と行き先を丁寧に伝えると
目を閉じて眠ったふりをする。

余計な話しをするのが嫌いなんだ。

語りはよく、ファッションデザイナーと間違われた。
語り自身ファッションが大好きで特にハイファッションを好んで着た。
最新のモードファッションスタイルの語りは
何処にいても目立った。
運転手はミラー越しに語りをちらちらと何度も見ていた。
眠っていると思っているから遠慮がない。
明らかに見ているとわかる挙動だった。
けれど、運転手がみていたのは語りではなく
語りの着ている服だった。
どうやって着る服なのか、形が複雑すぎて
運転手は何度見てもわからなかった。

(語りは殺し屋なのにね。アーティストだからさ。おしゃれなんだ。)

タクシーの運転手はそのあと、
海外のあるブランドの名前を思いだそうとして
走りながらずっと考えていた。
思い出せそうなのに、どうしても思い出せなかった。
そして、タクシーは池尻を通り過ぎた。
(運転手が思い出そうとしていたブランドは「Dior」)
運転手が語りを起こそうと声をかけようとしたとき、
語りは目を開けて起きたふりをした。
そして、運転手に、女子大を過ぎた次の信号機を左に入って
水道局を越えたら道なりに少し走るとファミリーマートがあるので
そこで止めてください、と丁寧に告げた。
コンビニの前でタクシーが止まると料金を全部一万円札で支払い
おつりはいいです、と少しだけ微笑んで見せた。
運転手は金額が多いからと一度断ったが、
語りが大丈夫です、全部会社のお金ですから、と言い、
もう一度小さく微笑むと、
運転手は、有難うございます、と言ってレシートだけを語りに渡した。
語りは上着を手に抱いてドアが完全に開くのを待ってから、
ゆっくりとタクシーを降りて、開いたドアの方へ振り返り、
小さな声で、有難うございました、と言ったが、
その声は小さすぎて運転手の耳には届かなかった。
語りはコンビニに入るふりをしながらゆっくり歩いて
手に持っていたレシートを細かく契って手のひらの上において、
バースデーケーキのキャンドルの炎を子供が消すみたいに
ふうーと息を吐いて捨てた。
(語りは自分の誕生日を知らない。だから祝って貰ったことはない。)
そのあと語りは道路に背を向けて歩道を歩きながら
それとなく視線だけは遠くなっていくタクシーを追いかけていた。
タクシーが完全に視界から消えると
語りはコンビニから離れて、
タクシーが消えていった方向の逆へ向きを変えて歩いた。
そして、駅に着くと、また小さく手を挙げてタクシーを止めた。
語りは少しかがみながら静かにシートに坐り、
視線を少しだけ運転手に向けて、
丁寧にゆっくり小さな声で行き先を告げた。

(成城学園までお願いします。砧公園を越えると大きな病院があるのでそこで止めてください。)

タクシーから降りるともう外は明るくて
病院前のバス停にこれから通勤しようとする人たちが大勢並んでいた。
語りはアーケードのある商店街を歩いた。
そして、マクドナルドの前に来ると隣のTSUTAYAとの間にある
狭い裏道へ入っていった。
狭い道を出ると割と広い道路に出た。
道路を挟んで左右それぞれ独特のデザインで
凝った作りのデザイナーズハウスが立ち並んでいる。
(いわゆる高級住宅街。)
語りはそれには目もくれず右折すると、
それまでと違って早足で走るように歩き始めた。
デザイナーズハウスに両側を挟まれた、
それとはまた少し雰囲気の違うマンションの前で語りが止まった。
語りはマンションの上を見上げたまま、
携帯のボタンを押した。
少しだけ長いコールのあと、短い会話。
(10秒くらいだったと思う。)
語りはそのマンションの入り口に置いてある
コカコーラの自販機で2本小さなペットボトルを買って
マンションのエントランスのコールボタンを押した。
少しの沈黙のあと、スピーカーマイクから女の声がして、
ドアのロックがはずれると、語りはドアを開けて
静かに戻し、薄暗い階段を静かに昇る。
スパイラルを三回繰り返した。
部屋と部屋を分けるコンクリートの壁は解放で
そこから薄青い空が見えるが、語りは見ていない。
語りは目的の部屋の前に着くと
ずっと手に持ってた携帯をマナーモードにして
バッグの中にしまった。

インターフォンがあったけど、語りはドアを静かにノックする。
ドアのロックが外れる音と同時にドアが開いた。
語りはその瞬間今までずっとしていたメガネをはずし、
そこで意識が消える。

(バイバイ)

ドアの前で椿はメガネをバッグにしまった。
少し開いたドアの中から小さい声で名前を呼ばれ
椿は開いたドアのすきまをすり抜けて中に入ると
折れそうなほど細くて華奢な身体を柔らかく抱き締めた。

(お帰りなさい)

(ただいま)

blog_2 - 252

悲しい世界で薔薇が咲く。(永遠の帰還)

ここは留置場の面会室のような作りの部屋で
(ただデタラメに明るい。)
頑丈そうな分厚いガラスで真ん中を遮って部屋を二つに分けてある。
だからここでは向こうの部屋の人間との会話用に
マイクとスピーカーが設置してあって、
少し大きめな一人用のソファがこっちとあっちにある。
こっちには俺、あっちには何度かここで俺と話したらしいが
名前を聞いても思い出せない。
何色なのかわからないくすんだスーツを着た男が一人でいる。
俺の後ろでは精神科医の渡部が助手に手順を説明しているところだ。
(渡部は戦時中に精神医学の分野でかなりの功績を残した。人体実験を積極的に行い脳神経学などに多大な功績を残したが、その方法が非人道的だったという理由で現在の医学界からは排斥されている。予断だが、特に俺は渡部のこういう所が好きなんだが、渡部は80を越えて未だ童貞らしい。女が嫌いなんだ。渡部は男色家だ。)
渡部の隣で記録を録っているのは、、、、、
、どうでもいい。

話を続けろ。それと・・・
静かに話せ。そっちの声は十分聞こえている。
大きな声を出す必要はない。
それと、なんなんだ。その、、、
(その? その、?そのなんだ? 何が、何かおかしい。嫌な予感がする。淫を呼ばないと。)

4:23 AM
デジタル時計が点滅している。

何故か遠慮気味にこの男は
私の声が聞こえますでしょうか。と
少し大きな声で言った。
多分、さっきこの男が話していたことを
上の空で聞いていたオレが
自分のマイクの調子が悪いのだと勘違いしているようだ。
俺は声は出さずに軽く頷いて見せた。額に汗をふきながら
醜く太った向こうの相手はもう初夏だというのに
焦げ茶色のツイードのスーツを着ていた。
楽にしていい、と伝えたのにジャケットさえ脱がない。

最低だ。気持ちが悪い。

悲しい世界です。

あ?
向こうの男が唐突に言った。
俺は一旦マイクをミュートにしてから
渡部、今こいつなんて言ったんだ?、と聞いた。

悲しい世界です。
俺にもそう聞こえた。
俺は渡部の助手にチャプター201をもう一度再生、と言った。

悲しい世界です。

同じだ。聞こえたとおりだ。と俺は渡部に言う。
助手の千年がもう一度再生しますかと俺に聞いた。
俺は黙って、ソファをくるりと戻し
向こうのあの男と向かい合った。

(ミラー越しに冷たい宇宙できみを誰と間違うっていうのさ。
冷凍庫の中で二人がくるくる廻っている。)

向こうの男が急に立ち上がり、ジャケットに手を入れ
ガラス越しの俺にピストルを向けて、
Only You. と、言う。

ピストルのセーフティに指をかけている。
俺は向こうのあいつに視線を向けて無表情のまま、
渡部、これはなに?と聞いた。
返事がない。
俺はもう一度、渡部!、と後ろを振り返りながら怒鳴る。
渡部は凍り付いた顔が溶け出すようなアニメーションのように
モーフィングしながらあいつになって言う。

Only You. Jut Only You.

なに。
俺は天井を見上げ
小さく溜め息をついてから
向こうを見た。

そこにいたのは真っ黒いドレスを着た若い女。
初めて見る顔じゃない。
どこかで見た。
なにかが引っかかっている。
思い出せ。
誰だ。
俺はあの女を知っている。
目を閉じて
瞼の血管を意識する。
どこかへつながってる。
どこに。
どこか。
誰だ。
誰だ。
お前は誰だ?

(貧血みたいに目の前が真っ白になる、倒れる、ダメだ。時間が戻る。消える。)

俺は煙草に火を付けて
ガラス越しに暑苦しいスーツを着た中年の男を見ながら、
その姿を覆うように煙を吐く。
(悲しい世界だ。)

さっき、誰かが何か言った。
5分も前じゃない。
ほんの少し前。

誰かが、(悲しい世界だ。)そう。
悲しい世界だ。と言った。

俺は渡部の方を向いて
チャプター201をもう一度、と言う。

渡部の助手はおかしな顔をして
チャプター201ってなんですか?と言いながら、
渡部に何か小さい声で何か話している。

4:25 AM
開始します。と助手が言った。

何か変だ。
さっき、俺は、
さっき?
、、、
さっきって、いつだ。
さっき、俺は天井のに映る自分を見て、それから、
(冷たい川が流れている。)

俺は、、意識が混濁し始める。
眩しい。
光が鏡に反射して、それから、また、眠りに落ちる。

天井は鏡張りになっていて一瞬、上下の感覚がわからなくなるほど
精巧に出来ている。

ああ、ごめん、でも、
この辺の話はどうでもいいんだ。
やめようよ。

要するにさ、ここは、、、、
ここは?

ここ、
ここどこ?

ここを俺は知っている。
以前来た。

来た?

(いや、君はここで、生まれたんだよ。)

ゆめ。
君が唄う夢を見ている。

きみは、

やあ、永遠。
また逢えたね。

blog_2 - 249

永遠の終わり。

3:30 AM
永遠(とわ)は夢を見ていた。
生きるという夢。
目が覚めたら死んでしまうから
永遠はずっと夢を見る。
夢の中で永遠は君と出逢ったり、
君と話したり、恋をする。
具体的なことは何も覚えていないけど
君の声と温度、
またね、と繰り返される言葉の群れと戯れていた。
永遠の名前の通り、
それは永遠に繰り返されるものだと
永遠はずっと思う。
それがやっと手にした楽園だと信じる。
永遠は一人きりの部屋で
二人を演じる。
僕が君で、君が僕だ。
愛してる。
ずっと、愛してる。
永遠は夢の中で
一瞬の永遠を手に入れた。
それはとても淋しいものだったけれど
永遠にとって一番大切な思い出で
君の名前が刻まれた銀色のブレスレットと共に
常に永遠の腕に刻まれた。
いつか永遠に朝が来て永遠の夢が覚めるときが来ても
腕に刻まれたブレスレットがあるから
永遠は笑って死んでいける。
夢は夢で
永遠にとっては生きることだったけれど
本当は永遠も知っている。
生きるが夢なら、
目覚めは死だということ。

君に届くかな。
僕の声。
愛してる。
ずっと、愛してる。
永遠に。

透明なカプセルを三つ飲み込んで
最後の煙草に火を付けたら
紫の煙が朝焼けに涙を描いた。

永遠はソファにもたれて
眠った。
永遠に眠った。

朝が来て、
世界は滅んだ。
永遠の世界は滅んだ。

3:51 AM

blog_2 - 248

紫から逃れる夢と死んでいることに気付かない僕。

朝、起きると永遠(とわ)はバスルームのスイッチを入れて、珈琲を入れた。
儀式は夜だからこれはバックアップのためじゃない。
永遠の娯楽のためだ。
永遠はバスルームで煙草を吸うことが好きだ。
バスルームの立ち上る湯気の中に
自分の口から吐き出すムラ式の煙を混ぜて遊んでいる。
永遠が飲む珈琲はチョコレート色をしている。
とても濃くて苦い。
そんな朝が永遠は好きだ。
飲み終わる頃にアラームがなる。
永遠はバスルームへ向かう。
服は最初から着ていない。
永遠は寝るときは何も身につけない。
シーツもタオルケットもホテルのように毎日取り替えるからとても清潔だ。
バスルームに入る前に軽くシャワーを浴びる。
「死にたいクスリってあるのかな?」
永遠の独り言に涙が答える。
「きみが毎日飲んでる紫のタブレットが死にたいクスリだよ」
「そうか、だから、僕死にたいんだ。」
浴槽で半身浴をしながら1本目の煙草に火を付ける。
紫の煙が白い湯気と混ざり合って換気扇に吸い込まれていく。
「だけど、まだ量が足りないみたい。僕、まだそんなに死にたくないから」
永遠は毎日新しい身体になっていることを知らない。
意識だけが連続していて、身体は夜に死んで朝になれば新しい身体が用意されている。
「どうやって死のうかな、僕」
出しっぱなしのシャワーのしぶきの中に煙草を投げ捨てながら永遠はそう言った。
永遠はすぐに次の煙草に火を付ける。
そうして永遠は結局7本目の煙草を吸ったあとにバスルームを出た。
いい朝だった。

blog_2 - 231

キミヲオモウセカイノハテ

3℃で覚醒する月。
(キミヲオモウセカイノハテ。)
つかみそこねたのは、確か去年の春。
「command + z」
戻らないスクリーン。
暗い闇。

鍵盤を走る指先に体温を感じた。
新生する花びらにユビを絡めて錆びたコマンドを入力する。
「command + v」
何度でも
降ってくる。
声。
夢。
雨。
憂い。
季節。
冬。
君。

降り注ぐ
黒鍵盤、白鍵盤。

(おいで。)

(蜉蝣が散って、夏が終わった)

虚ろがバスルームから出てくる。
いつもどおりの、日常だけれど、それは巨大な夢の一片。
過去のライブラリから、再生される、記憶。

(星になれればよかった、闇じゃなくて。)

blog_2 - 004

ネーム・オブ・ネーム。

乾いた唇から漏れる言葉は意味をなさず
何を伝えようともしない。
言葉が解体されていく。
雨という名前。
夜という名前。
闇という名前。
暁という名前。
どれも自分。
解体されているのは自分だ。
これ以上何を望む。
何を願う。

世界は沈黙した。

命のやりとりをしよう。
(命と引き替えに、何が望みだ?)
壊してくれ。
俺を壊してくれ。
何も考えず、何も怖れず、何にも揺れない虚ろにしてくれ。

(後戻りは出来ない。それでもいいのか?)

いい。俺は夜だ。
紺碧に落ちていくシューティングスター。
数秒で消えていく。
一瞬で燃え尽きる輝きになりたい。
あとはどうなってもいい。

虚ろは壊れてる。
虚ろにはなれない。
夜、お前がはじまりだ。
クスリが弱いんじゃないのか。

先生のクスリじゃダメだ。

クスリの手配ならしてやろうか。
今度は後戻りできないぞ。

どのくらい欲しい?

5g
ニードルも。

虚ろに会いに行く。
虚ろの分も用意してくれ。
ディズニー。シャネル。ありったけ。

来月、それでいいか?

なるべく早く。
世界、俺、馬鹿なことしてる?

(沈黙)

blog - 288

虚ろのこと。

暗闇に目が慣れても暗闇がなくなるわけじゃない。
俺が目を閉じても闇はなくならない。
そこにまた闇がある。

傘を差して行こう。
(ヘビ柄の傘。)

壊れた虚ろを連れてサナトリウムへ向かう。
虚ろ、ここがどこだかわかるかい?
虚ろは何も言わない。
虚ろ、おまえの新しい居場所。
おまえ、もう誰も殺したくないだろう。
虚ろは遠くを見るような目で俺を見ていた。
虚ろ、おまえ。

そう。
もうここにはいないのかい。
虚ろ、永遠(とわ)に会いにいったのか。

闇、またひとりいなくなったよ。
俺たち、きっと少しずつ死んでるんだ。

クスリの時間だ。
虚ろ、おまえの好きなクスリ。
飲みな。

好きなだけ飲んでいい。
虚ろは無造作にケースをひっくり返して
手のひらからこぼしながら口いっぱいに頬張って噛み砕いた。
そして地面に手をついて落ちた錠剤をかき集めてそれも全部口に入れた。
虚ろは汚れた手でもっと欲しいという仕草をした。
もうないよ。虚ろ。
虚ろは同じ仕草を続けてる。
もうないんだ、虚ろ。
その瞬間、虚ろの体が激しく痙攣した。
虚ろの体を落雷が貫く。ドーパミンが溢れ出す。
虚ろはゆっくりと溜め息をつきながら空を見上げ、羽のように両腕を広げて
ほんの少し笑った。

また9月だった。

blog - 286

羽化。

人は膨大な情報を解析していきる生き物。
ゆらぎなくしてはあれだけの情報を取り扱うことはできない。

人の心ほど不安定なものはない。
それは嬉しいことでも悲しいことでもなく、
ただそういう性質を持っているというだけのこと。

明日僕が君を忘れたらどうする?
君との記憶をすっかり全部忘れてしまったら君はどう感じる?

昨日君が僕を忘れたことと一緒だよ。
君はもう僕を覚えてはいない。
覚えていない人を忘れることは出来ないね。

君は常に忘れられていく立場の人間らしい。
忘れられるのは辛いかい?

別に。
なんかどうでもいいやって。
好きにすればって感じ。

(窓閉めて。少し寒い。)

人は嫌いかい?

、、、、、、、、、、

人は嫌いかい?

くだらない。

人は嫌いですか?

、、嫌い。

自分が外に出て行けるとしたら何かしたいことはある?

外にでたら、、薬作りたいな。いろんな薬。綺麗な薬。

博士の元に戻ってくれるってことかな?

うん。超ー楽しみーー。いっぱい試薬あるんだってねーー。

試薬だけじゃない。
研究のためのあらゆるものが揃ってる。

はやくいきたいなーー。
ねぇ何時行けるの?

ガフの部屋を今開けてるところだから
中が空になったらすぐに君に入ってもらう。

ねぇ前のってどうなるの?

処理される。

処理って、、、具体的にどうするの?

さぁ、準備できた。
やるよ、きなさい。

うん。

あれがガフの部屋?

そうだ。

なんかゲーム機みたい。球体なんだね。

さあ、どうぞ。
これはもう君のものだ。

うん。

ん、、、、、ん、あたまが痛い。
(慣れるまでの辛抱だよ。)
(目を開けてみて。)
ん、眩しい。光が痛い。
んんん、、、、ぼやけてる。
誰? 綺麗な人。
あの人誰?
(あの人? あれは鏡に写ってる君だよ。)
え、これが僕?

blog - 265

新しいカルテ。

割れる、割れる、ワレル、ワレルワレルわれるーーーーー。
あたまが割れそうに痛い。
邪魔だ、おまえ、どけーーーっ!
痛い、痛い、いたい、いたいっつってんだろうーがーーーーー。
なんでそんな目で見る?
この苦しみがお前にわかるか?
ワレル、割れる、

目に指突っ込んでぐちゃぐちゃにしたい。
痛みは痛みで消すんだよー。死ねー。

新しい人?
痛み止めくれない?
ひどい頭痛でさ。

(何飲んだの?)

知らねーよー。
ここにあるものしか飲んでないよ。
青色の、それ、
テーブルの上にあるやつ。

(いくつ飲んだの?)

割れそうにあたまが痛いんだよーーー。
いくつなんて覚えてない、、、。

3つかな、知らねー。
いくつ余ってる?

(4つ)

じゃあ、3つ。

(いつ飲んだの?
ここに横になって点滴するから。)

5時間くらい前かな、、。
早く治してくれる。
死にたくなる。。

(はぁ、はぁ、はぁ、息がく、るしい。。)

(腕出して。
ちょっと痛いわよ。我慢してね。)

いいよ、このあたまの痛み、忘れさせてくれるんなら。。
早くして、

(いれるわ。)

いってーーーーーー、なにいれてんだーー。
めちゃくちゃいてーーぞ!!!!!!

(我慢してって言ったでしょ。
あなたの体に入った試薬を中和させるためなんだから。)

いってー、腕がびりびりしてるよ、、。
なにいれたの?

(内緒。それよりあなた死ぬとこだったのよ。
感謝して。)

なんで俺が新米のインターンに感謝しなきゃいけないんだよ。
ばーかー。

(私はインターンじゃないわ。)

え、じゃあ何?

(今日からあなたの主治医よ。よろしく。)

あいつはどうした?
あ、あたまいてーの、なおってきた。
効くねー、その痛み止め。

(あいつって、教授のこと?)

そうだよ、あの人はどうしたの?

(スイスに飛んだわ。研究発表。お偉いさんだから、彼。)

彼って、あんたいくつー?
見た目、教授よりだいぶ若く見えるけど。

(関係あるの? 年なんて教えない。
よけいな会話はしない。あなた嫌いだもの。)

あ、そう。
嫌いって、俺のことなんにも知らないくせに。
なんで嫌われてんの?

(あなた、ジャンキーだから。)

ふうん、ま、それじゃーしかたねーな。
けど、俺のサポートなしじゃあ研究進まないんじゃないの?
お姉さん。

(サポートは当然してもらうわ。
あなたの好きにはさせないわよ。)

(ここのクスリの管理も厳重にするから、全部引き上げるわ。)

ちょ、ちょっと待てよ。なんでさー。
ここの試薬は教授公認だ、文句は言わせねー。

(あなた、さっき死にかけたのよ。
致死量の2倍も飲んじゃってさーー。あきれるわ。
初心者じゃあるまいし。
だから、私が管理することにしたの、文句ある?)

あるに決まってんだろうがー。
クスリくれないなら、協力しないよ、俺は。

(いいけど、あなたそれでいいの?
記憶、取り戻したいんじゃないの、教授に聞いてるわよ。はなし。
私の言う通りにしてくれたら、
クスリもあげるし、記憶も取り戻してあげる。
悪くない条件なはずよ。)

ふうん。
お前何もの?

(私は人の長期記憶に関する研究をしているの。
脳内のグリア細胞がその大半を担っているという
仮説があるの、あなた知ってる?)

グリア細胞?
ああ、知ってるよ。
だけど、いまだ決定要因にかけるってんで
あたまのいい研究者はそいつに首突っ込むのはやめてるらしいじゃん。
人体実験でもしなきゃ確証が得られないんだろ。
倫理がどうとか、大変なんだって?

(そう、だけど、その問題は今解決したの。
被験者が手に入ったから。)

そういうこと。
じゃあ、ピンクのダイアちょうだい。

もう切れてきてる。
くれよーー。

なんなら、一緒にやる?

(明日の朝9時にCTスキャンさせてもらうわ。
寝坊しないでよ。点滴はずす。どいて。)

新しい先生、か。
気に入らねー、女。

blog - 259

狂いの入り口。

殺してしまいそうになる。
そのつなぎ目で私はダンスを踊る。
ダンスホールには私のコピーが溢れている。
つまり、私で満ちてたってこと。
でも、ピーターは約束したって言ってるんだ。
だってあの子、タイプじゃないし。
ピンクの後ろ姿に夢ぶら下げてますよ。
当然、因果律は下がり
私という現象がそのことにより破綻したなら
世界を過去関数としてあっちの世界では廻ってくれる。
だって、そのほうが面白いだろ。
状況は赤だ。
止まれって言ってる。
止まるわけないだろう。
ベレッタ、その名前のピストルを知らないのかい。
誰か、何か言った?
時間が揺れてるんだよ。
ベレッタ。
オートマチック。
撃った。
パン。

僕の望んだ世界。
知りながら捨てていった。
きらめきは遠い世界へ
そこで待つのもいいね。
僕は嫌だな。
すぐ行こうよ。
蛇の目でにらんだって
こっちだって、立てこんでるさ。

パン、
なぁ、そうだろ、虚ろ。

パン。

 

 

blog - 191