儚さを夢を嘘を永遠を隠す。そして、新しい私。

いやなんです
あなたのいつてしまふのが――

花よりさきに実のなるやうな
種子たねよりさきに芽の出るやうな
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理窟に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい

(智恵子抄・人に/高村光太郎)

冷たい温度は、悲しみの記し。その中に言葉を埋め閉じる。
温度はここから先にある全ての保存則に従い、円を描く。
それが運命の輪。
決して変えることのできない絶対不変の現象。
言葉がそこに意味を与える。

「これは夢の話ではないよ。」と椿が言った。

小さなさよならを連れた椿が「ほら、さよなら、やっておいで」というと、
恥じらいながら小さな声で言う。
「私は無力で、無知で、弱い。
まだ小さなこの身では女としての価値もない。
私はそれでもりょうの足で地に立って空を仰ぐ。
なにも変えることのできない自分を、
変えるための自分殺しを行う。
私はこれから一度死にます。
花を飾る隙間があれば救えたものを、
きみはどうして、手を離したの。
この記憶は私のじゃない。
誰。
私に入らないで。
私は今から死ぬのだから。
本当に愛していたの、
愛していたのに出来なかったの。
きみには無理が多すぎる。
だから、愛想を尽かされる。
救いようがない。
自分の中身が空っぽだということに気づけず、
宛先のない手紙はどこにも届くことはない。
手紙の中身さえ、
なにも書いてないただの白紙の紙なのだから。
ただ名前を呼ぶことさえ僕は躊躇った。
きみの名前を僕はたった一度も呼んだことがない。
本当は一番呼びたかった名前だというのに。

わたしのきおくから、
きえて
わたしはもう、
しのなかにいる、
はやくにげて、なかのひと、

椿がさよならの手をひいて、
霧の中に消える。

私は椿の手を離さずに椿に問う。

「椿、私は新しい?」
「私は新しい?」

「うん、新しくて素敵だよ、
さよならは大人になったね、とても綺麗だよ」
椿がさよならを見つめて褒めた。

私は私の中に新しい私を作った。
それは私の王国そのものだった。

さっきのひとは、
どうなったのかな、
しらないひとだけど、
なつかしい、
どうして、
なみだかでるの、
わたしないてるの、
どうして、
どうして、
どうして、

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光よりも速く悲しい。

珍しいね。
きみが来るとは思わなかったよ。
(きみは僕を見ない)
じゃあ、もう、行くんだね。
(何か他に言うことはないの?)
そうだね、
忘れないよ。(退屈な言葉だ)
私も忘れないよ。(確かめる方法がない)
じゃあね。
じゃあね。

(僕が眠ってるソファの前を
 足音をたてないようにゆっくりきみは歩く。
 そして、無くなったらすぐにわかる一番目立つものをひとつだけ盗む。
 僕は目覚めたらそれが無いことにすぐ気付いて
 誰が持っていったかもわかる。
 これでいい?)

悲しみは光より速いスピードでここへ届くから
僕はその前にここから出て行こう。

blog_2 - 236

僕はきみで誰か。

溶けるような熱い目に見つめられて僕は本当に指先から溶け出していった
溶け出した僕がきみへ流れていくのを溶けながら僕はじっと見ていた
流れていく僕のあとに乾いた僕が冷えて固まって
僕ときみの間に川が出来た
逢瀬の川に水は流れなくて、流れるのは時間だけ
時間のある限り僕はきみとひとつになって
気がついたら僕はひとりできみの中にいた
それから、ずっとふたりでひとり、心の中はとても広くて僕はきみの心の中で
時々迷子になりながら
それでもきみが僕をいつも見つけてくれるから
僕は何も怖がらずにきみの心の中にずっと住んでた
きみが死ぬまでずっと一緒に暮らした
きみが死んでもこの場所は変わらずにあって
僕はきみの匂いのする長い廊下をずっと歩いた
その先にきみが居る気がした
廊下はとんでもなく長くて今もまだ先が見えない
でもきみの匂いがするから
僕は寂しくなかった
それが100年続いて、知らないうちに広い場所できみにあった
変わらないきみだった
僕をみて、やあ、待ってたよ、と言った
そして、じゃあ行こう、と言って僕の手を握って、
1,2,3,と数えると、ふっと何も見えなくなって
身体の感覚も音も全部消えて、
だけど、きみの匂いだけがずっとあたまの中で香っていた
それが僕の人生の最後だ
匂いは消えず、最期にきみとまたひとつになって
僕は笑って死んだ
何も無い暗闇の世界の中に沈んだ
ふたりで

blog_2 - 234

願いとは、願いとは相容れないものなのか。

柔らかな赤色に彩られた天上の見果てぬ人よ。
私はあなたの千の願いを叶えるために
私の無限の希望を放棄しよう。
あなたの願いのためにこの身を捧げよう。
永久に。
知っていますか?
あなたが笑った姿を私は一瞬も目をつむらず焼き付けていく。
そのためなら私は私ですらなくなっていい。
元々私は誰でもないただの傍観者だったのだから。
傍観者だったはずの私が
あなたを見つけたことで役目を捨てた。
私は天上から追われる。
それでもいい。
あなたが笑ってくれさえすればそれでいい。
全部いいんだ。
私はいつか消える。
消される。
その前にあなたの願いを叶えて差し上げます。
私の魂はもう既に欠けてしまいました。
あとしばらくの命です。
私は無に落ちるでしょう。
許されるなら、何千年かかってもかまいません。
あなたの傀儡のひとつに私の名前をつけてください。
そして一度でいいから、××と呼んでください。
そうしたら私はきっと無の世界で
この世界では嘘になってしまう言葉で
あなたに愛していると言える。

あなたの千の願い
きっと私が叶えてみせます。
人の形を捨てた
その醜悪な姿の私を見ても優しく笑ったあなたのために。

 

blog_2 - 133

強きもの、弱きもの。

爪の光沢が失われていくように
僕のいうことを聞かない僕の体が
あからさまに夜に奪われていく。
今日の獲物は誰だ?
ぐずぐずしてるとかみ殺すぞ。
僕の痛みはくすりでは消せない。
小さい頃、ひとりで部屋で聞いていた雨音が止まないんだ。
窓の外を見てる。
暗い雲、窓ガラスに描いた言葉。
もう忘れてしまった何か。
僕はどうして元に戻りたいんだろう。
先生、あなた趣味が悪いよ。
爪を切ったあと殺した。
小さなうめき声、あなたかっこ悪いよ。
砂時計をひっくり返して僕は時間稼ぎする。
死んだ先生のボールペンで
僕のカルテにライオンの絵を描いた。
なぜライオンかって?
僕はライオンになりたかったからさ。
強い者だけが生き残れる世界。
ドーパミンとかセロトニンとかどうでもいいよ。
冷たい指できみの夢に触る。
僕はきみに光り輝く愛をあげる。
どうか、どうか、神様、僕はどうなってもいいから
この子を守ってください。
宇宙時間で僕は全世界に宣戦布告する。
世界よ、オレを殺せ。
きみへ、
最後にきみの寝顔が見られて幸せだったよ。
僕はこれで抽象的な世界へ入る。
概念的な世界。
僕はきみの中にだけ存在する。
星の終わりに見る夢でいつかまた会おう。
さよならのキス。

 

blog_2 - 131

ほんの少し前、もう追いつけない過去。たった46秒前。

暗い空、寂しい雲
寂しい日に寂しいうたを聴きながら
寂しさに沈んで
今日は寂しいねと呟いた
寂しさが僕を僕に閉じ込める
閉じ込められた僕はさらに寂しくなって
もう誰にも見えなくなって
寂しいと呟いた自分と一緒に消えて
寂しいと感じないくらい
透明になって
いつかここにいた自分を
誰かが愛おしく思い出す日が来るまで
深く深く沈んでいようと思った
寂しいと呟いた46秒前が遠くに感じる
あれはまだ僕がここにいた頃のはなし

 

blog_2 - 125

同じ粒子で囁いた僕は夕暮れ。

いつのまにか千年が過ぎて
同じ方向に光を放つ瞳が嘘をついた
昨日と同じように見つめていたはずの心が
本当に見つめていたのはもう過ぎていった時間から
不可逆性を取り除いた空想の僕
つまり君はタイムマシンにのって僕に会いにきた
もういない僕の名前を呼ぶ君は
呼びながら ふと思う
*** あなたは誰
私は
私が誰を呼んでいるのか知らない

君は僕を知らず
その空想遊びを使って
タイムマシンにのってここにやってきた
だけど君は知らない
僕の本当の名前を知らない
僕はいない
だから知るわけが無い
存在しないものを思い出せない
世界の成り立ちが突然始まった宇宙だとしても
存在しなかったものを記録していないものを
誰も知ることはできない
君が一生懸命に思い出そうとしているその人は
僕で置き換えられた存在すらしなかった空想
僕の名前を知っているなら呼んでごらん
君は立ち止まって振り返って
僕のいた場所を眺めてる
だけどもうそこにはいない僕を
いくら見つめても
蜃気楼でさえない僕は永遠に見えない
僕は一度だって
この世界に生きたことはない
君が見た僕の欠片は
いつか僕と同じ方向に光を放った誰か
過去から放った光が君を追い越していった一瞬
何か懐かしいものに触れたと感じた夕暮れのような
オレンジ色の光
それはいつか誰かが僕と同じ方向に放った光
僕は永遠にいない

 

blog_2 - 123

One Life, One Death.

僕は静かに狂っていた。
物音ひとつたてず、きみの寝息に耳を傾け僕は狂っていた。
僕は静かに狂気を纏った。
暗い海の底できみの笑い声が無音で響く。
言葉を失うべきときは既に過ぎ、
僕は止まない夢をきみに降らせるためだけに生きて(死なないで)
罪人が祭壇で空に祈る懺悔を踏みつぶした。
つまり、僕は炎だ。
いつか燃え尽きるまで激しくゆらめく予感のような存在だ。
寒がりなきみを消えるまで温めていたい。

夢が死の断片であるように
僕は幻想の早送りになってきみに届きたい。

ねえ、いつか僕はこの世界を憎んでると言ったよね。
でもね、今はこの世界が好きだよ。
君がいるこの世界に生まれてきてよかった。
聞いてる? 神様。
僕はあなたの選んだこの世界が好きだよ。

僕の一度きりの世界がこの世界であったことを
心から感謝します。

(sekai ga
boku wo
sabaku.)

 

blog_2 - 122