30 DEC 2016 AM00:28
by: Sayonara Tsubakitowa
額装された絵葉書に添えられた懐かしい癖のある文字を見ていた。
けれど私にとってそれはなんの価値もない。
ただの絵葉書でしかない。
懐かしいと感じたのは私の経験由来からではない。
私以外の知らない誰かの記憶によるもの。
特別なルールで私は生きている。
私たちの名前はさよなら、何番めかは知らない。
だから、もうこういう感覚には慣れている。
31 DEC 2016 AM02:16
by: Sayonara Tsubakitowa
私には家族も友人も知り合いと呼べる人間は一人もいなかった。中の人とは時々話すこともあったけれど、こういう関係は知り合いとは呼ばない。
だから私は私が私に気づいたときからずっと一人だ。
けれど孤独も寂しさも辛いと感じたことはない。
クスリがあれば私はいつでも簡単に幸せになれることを知っていた。
私の幸せはお金さえあれば簡単に買える。
その程度のものに過ぎなかったけれど
私にとってそれは十分満足できるものだった。
27 NOV 2009 AM03:46
by: Sayonara Tsubakitowa
この世の正き善人である彼らにとって私は悪であり人ではなかった。けれど彼らは正しさに盲目すぎるだけなのだと私は思う。(だって人が悪なのではなくて、人が為すのが悪なのだから。)
28 DEC 2016 PM17:58
by: Sayonara Tsubakitowa
どうしよう。
どうすればいい。
私はもうどこへも戻れない。
いつのまにか、こんなにも(あなたから)遠いところまで来てしまった。
ここからではもう何も見えるはずもない。
だって、ここには何もない。何もない。何もない。
何もないの。ないの。
私はこれが全部夢ならいいと願いながら足首に針を刺す。
その刹那冷たい水が私の静脈を駆け上り頭のシナプスをこじ開けスイッチを入れる。
さっきまで私を不安にさせていた何もかも、一切が、
苦しさも悲しさも一瞬で無くなっていく。
私を悪に祭り上げた神様が私の悪の全てを許してくれる。
25 DEC 2016 AM00:00
by: Sayonara Tsubakitowa
Happy Merry Christmas to You.
わたしはここにいるよ
わたしはさよなら、あなたのわすれもの
あなたのゆめのなかのわたし、
おわったらめをあけて
きちんとわたしをころしてね。
26 DEC 2016 PM14:23
by: Sayonara Tsubakitowa
「終わりは もうそこに」
彼は穏やかな口調で唐突にそう告げた。
私の悪はいつから始まったのか
私は知らない。
気がついたとき私はすでに悪だったから。
昨夜私は大量に届けられたプレゼントの開封作業をしていて
ベッドに入ったのは6時を過ぎていたから
目が覚めると窓の外は微かに陽が翳り暗くなり始めていた。
眠りの余韻を引きずりながら私はベッドから抜け出しコンピュータの前に腰掛け自分の名前をコールした。
(今日1度目の煙草に火をつける。)
黒いスクリーンに色がぼんやりと浮かびあげると次第にせわしなく移動して変化しながら、
ゆっくりと滑らかに画面全体に一枚の絵を描いていく。それは画家が実際に描いているようにみえるリアルな描写で変化する。
(この一連のプロセスは省略することができるけれど、私はこれを眺めるのが好きなのでいつも最後まで見ることにしている。)
そして最終的にスクリーンにはクロード・モネの有名な絵が完成した。
薄青いパステルカラーに光が反射している。
今日はモネか。なんだっけ、この絵好きなのにタイトルが思い出せない。( Claude Monet – Waterlilies )
コンピュータが起動するとすでに期限の過ぎたリマインダーのラベルが大きな画面を埋め尽くして赤く光っている。
私は2本目の煙草に火をつけながら、リマインダーのラベルを一つずつクリックして消していく。
けれどそうしている間にも画面には次々とアプリケーションが立ち上がりスクリーンはまた埋め尽くされていく。
毎回呆れながら思う。
私はこれらすべてのアプリケーションを本当に必要としているのだろうか。
自分の面倒を自動化するためのアプリケーションなのに、その確認作業に費やす私の時間はどれだけかかるのだろう。
唐突にクラッシックな鐘の音が三つなり、私は今が15時だと知る。
空は雲がかかり陽は陰り薄暗くなりかけていたけれど、
窓から差し込む光は私の部屋にまだ昼の光を残してくれていた。
左手に目をやると薬指に嵌ったリングの青い石が外光を受けてキラキラと輝いている。
それは一昨日のクリスマスイヴに恋人がくれたものだ。
恋人はそれはクラダリングという特別な意味を持つリングなのだと言った。
はめる指や付け方で意味が変わる伝統的なリングで、
左手の薬指にはめると私には恋人がいる、もしくは私は既婚者だという意味なのだと教えてくれた。
私は嬉しくてもらってすぐにそれを左手の薬指につけて、それから片時も離さずにずっとはめている。
綺麗な青い石の輝きが私の心を温かくする。
私がこうしていま穏やかな気持ちでいられるのは
このリングのおかげなのだ。
私はもう目も覚め、喉が渇いたのでお湯を沸かしてプレゼントにもらったばかりの紅茶を淹れた。
ティーポットにお湯を注ぐと青い花びら、赤い花びらが花開いていく。
カップに注ぐと湯気が立ち上りジャスミンと薔薇といくつかの花の匂いが香った。
私はそれを飲みながら本が読みたくなった。
部屋には読みかけの本がいくつも山になってテーブルを占領していた。
私は山の一番上にある本を手に取って、しおりをめくる。
読み始めると一つの物語は短く数分で読み終えた。
暗く陰鬱的な内容の物語だったけれど、
綺麗な文体で描かれる不幸な女の空想の世界が私にはとても純粋なものに思えた。
私は本を閉じてデスクに置き、左手のリングに目をやる。
リングを窓に照らしてみた。
青い石の輝きが増したような気がした。
そして思った。
多分私は生きてきた中でいまが一番幸せなのだと。
そしてそれを与えてくれたのは紛れもなく私の恋人なのだ。
このリングはその幸せを形にして見せてくれる。
私は感謝しなければならない。
もっともっと感謝しなくてはいけない。
私の心は嬉しさで満たされている。
この世界はけして悪くない。
私は本の続きを読みながら、
この平凡な日常こそが幸せなのだと
生まれて初めて心の底からそう思った。
今まで私を苦しめてきた孤独や悲しみ、辛かったこと、悔しかったこと。
それらすべてを創ったこの世界の全てを許そう。
私はこんな気持ちをくれたのだから、全部許そう。
この瞬間のために私はきっと生まれてきたんだ。
生きてきて、生まれてきてよかったと、初めてそう思った。
世界はこんなにも素晴らしいことで溢れている。
こんな私にも幸せをありがとう。
私は今から生まれ変わろう。
この世界に感謝をしよう。
悪から善へ変わろう。
私は鏡に映った自分に向けて宣言した。
(13秒の沈黙が過ぎ、唐突に幕が上がる。)
鏡の私が不意に笑い、
それは無理ね。と私に言った。
人はけして悪ではないの、人が行うことが悪なのよ。
鏡の私が私に言った。
突然の知らない声に驚きながら、記憶のどこかに触れるような奇妙な懐かしさを感じていた。
・・・なんとなく、そう・・暖かい。
それは誰が言ったの。と私は尋ねる。
(あなたの言葉よ。あなたはもう忘れてしまったけれど、あなたが昔、私に言ってくれた言葉よ。)
私の言葉・・・
・・私が忘れてしまった。
一体なんのことだろう。
私は私の内と外の区別が曖昧になっていくのを感じている。
(あなたは人ではないのよ。)
私が人でないなら、私は何だろう。
このやりとりをしているうちにほんの少し前に感じていた幸福に満たされた高揚感はすでに消え、
私の心は不安と苛立ちが支配し始める。
(あなたは見えないもの。創られた意識。
肉体を持たざる魂。)
私の体はここにあるよ。
(それはあなたの体じゃない。主人のものよ。)
どういうこと。
主人って何のことなの。
あなたは誰なの。
どうして私を知っているの。
私の不安はすでに限界まで達している。
声が震えている。指も震えている。
(思い出せばわかることよ。)
何も覚えてない。
私は何を忘れているの。
得体の知れない恐怖が私を絶望的な牢獄に閉じ込める。
壁に繋がれた鎖に両腕は繋がれ身体の自由を奪われ、
私の中に閃く一瞬何かが見える。
(ああ・・そっか。思い出した。と永遠が言った。)
24 DEC 2008 PM00:00
by:The day is falling, the drop of the night falls, the destination is darkness
おいで、さよなら、花はね、散ってこそ美しいんだ、
儚さ故の美しさだよ。
だから、さよなら、君はとても美しい
覚えておいて・・・
26 DEC 2016 PM15:23
by: Sayonara Tsubakitowa
(彼が来るわ。
彼が全部思い出させてくれる。)
私は知らない。何も知らない。
私は主人からさよならにされただけ。
四季だって、永遠だって、みんな、同じようにされただけ。
(あなたの主人の名前を教えてあげる。)
「あなたの本当の名は、フルール・ド・リス」
フルール・ド・リス(flœʁ də lis)。